迫る!“想像を絶する”AGIの登場
AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)(*1) の登場が、いよいよ目前に迫っています。
こちらの記事(参考リンク)で紹介したダニエル・ココタジロ氏は、AGIの実現を2027年と予測していますが、OpenAIのサム・アルトマン氏や、xAIのイーロン・マスク氏、元OpenAIのレオポルド・アッシェンブレナー氏らは、いずれも「早ければ2025年中」に実現すると見ています。
AGIの登場は、過去のどのイノベーション(参考リンク)とも比較にならないほどの、想像を絶するような、人類史上最大の衝撃を我々の仕事や生活に与えることが確実です。
にもかかわらず、我々人間は、このAGI、そしてそのすぐ後に到来するASI(Artificial Super Intelligence:超知能)(*2) に対して、いまだまったく備えができていない状態に見えます。
「備えあれば憂いなし」、あるいは「転ばぬ先の杖」。
数年内(もしくは今年中)に訪れるであろう、この史上最大のパラダイムシフトに備え、我々が今、何をすべきかを考えてみたいと思います。
*1 AGI:人間が行うあらゆる知的作業(理解・学習・実行)を代替できるAIのこと
*2 ASI:人間の知能を遥かに超える(例:1万倍)AIのこと
AGIにより引き起こされる抜本的なパラダイムシフト
AGIの登場によって、既存のあらゆる価値観は大きく覆されることになります。
1. 仕事(労働)の激減と再定義
AGIによって、ホワイトカラーや知的労働の大半は代替されます。これにより、「やれば稼げる」という従来の社会モデルは崩壊します。AIが労働を担うことで、商品やサービスの価格が劇的に下がるという予測もありますが、それらを購入・消費する「お金」を人間がどこから手に入れるか、という新たな大問題が発生します。(参考:OpenAI サム・アルトマン「Moore's Law for Everything」)
2. 情報格差から「質問力格差」への転換
AGIが普及すると、知識そのものは誰でも簡単にアクセスできるものになるため、従来の「知識の多寡」で優位性が決まる時代は終わります。過去の情報格差は、教育・環境・経済的な要因によって生じていましたが、AGIによってその壁は大きく取り払われます。知識の獲得が容易になった結果、より重要なのは「何を尋ねるのか?」という質問力になります。深い問いを立てる能力があれば、AGIをより高度に活用できるため、新たな社会的格差が生まれるとすれば、「どんな問いを立てるか」「答えをどう活用するか」という能力の差となるはずです。(参考:ミシガン州立大学/Apple Developer Academy サラ・グレッター博士 「The Privilege of Asking Questions: Reflecting on Information Literacy in the Age of Gen AI」)
3. 人間らしさ=「非合理性」「身体性」の価値の再評価
AGIの進化により、合理性や効率性が支配的になっていく一方で、それでは測れない「人間にしか持ち得ない価値」が見直されていきます。芸術・運動・対話・遊び・感覚など、AIにはない特性が人間の存在意義を強化するものになり、これからの社会ではより重要視されるはずです。「予測できないこと」や「遊び」こそが人間の豊かさを生むものとされていくでしょう。
4. 社会制度の大変革(教育・雇用・福祉)
教育=知識伝達、仕事=労働提供、年金・税制=就労前提という構造が崩壊し、制度全体が見直されることになります。
AGIが普及し、労働の多くが代替されることで、現行の社会制度は根本から見直される必要があります。教育・雇用・福祉といった社会の基盤が「労働前提」で成り立っていたため、これらの制度は大きな変革を迫られます。
まず、従来「知識を学び、社会に出て活用すること」を目的としていた教育ですが、AGIの進化によって「知識の暗記や習得」の価値が相対的に低下するため、「問いを立てる力」を育成するものへとその目的が根本的に変わるはずです。
「働くことの意味」も根本的に変わります。従来の=「生産活動」という定義は、=「価値を生むこと」となっていくでしょう。つまり、仕事=「生計を立てる手段」ではなく、=「社会に貢献する活動」として再定義されるのです。そして自由時間や自己実現の時間が増えることで、社会全体が「労働中心」から「生活充実型」へとシフトするでしょう。
また、労働が社会の基本から外れることで、福祉・年金・税制にも当然大きな変革が求められます。現在の社会制度は「就労前提」で設計されているため、労働の減少によって新しい分配の仕組みが必要になります。現在の税制は「所得課税」を主軸としていますが、労働が減ると所得課税だけでは社会を支えられません。代わりに、AIの活用による経済活動や資本収益に対する課税が新たな財源として重視される可能性があります。
5. 「存在意義」の危機(メンタルヘルス問題)
AGIが社会の中心に組み込まれることで、労働・役割・自己価値の概念が大きく揺らぎます。「仕事がない」「役割がなくなる」「AIの方が優秀」という状況が広がることで、人々が虚無感や無力感に陥り、精神的な不調が深刻化する可能性があります。
これまで、人間の価値は「仕事」と強く結びついていました。しかし、AIが労働を担う「働かなくても生きていける世界」となると、人間には「自分は何のために存在しているのか?」という問いが浮上し、社会全体で「自己価値の喪失」という問題が深刻化していきます。「AIにできないことは何か?」をひたすら問い、人間のアイデンティティを再構築する必要が生じます。
社会貢献の形は、労働だけではなくなります。ボランティア活動、文化創造、コミュニティ運営など、「人間が社会に何を提供できるか?」を今のうちに深く考えておく必要があります。
「変化」への備え
これらの変化に対し、我々は今から例えば以下のように備える必要があると考えます。ただし、これらの多くは「これまで無価値とされてきたもの」に新たな価値を見出す行為であり、既成概念に囚われている限り、大きな困難を伴う可能性が高いと考えます。経路依存性からの脱却が急務です。
「1. 仕事(労働)の激減と再定義」への備え
――「職業=収入源」ではなく、「役割=存在意義」と再定義し、たとえ無報酬でも「やりたいこと」「貢献できること」を持つ。
■「役割=存在意義」の多様化
従来の「職業=収入源」という概念では、働くことが生計の維持につながるものでした。しかし、AGIによって労働のほとんどが代替されると、収入という枠組みが崩れ、「働くことの目的」が変わります。ここで重要なのは、「何のために活動するのか?」という問いです。
- 「経済的な生存」から「精神的な充足」へ:
これまでの労働は、金銭を得るための手段でしたが、今後は「生きる意味を見出すための活動」として再構築されるでしょう。これは、芸術・哲学・社会貢献のような分野への関心を高める動きと密接に関係します。 - 「他者との関係性」を重視する社会へ:
AGIが業務のほとんどを代替する中、人間同士のコミュニケーションや共感が重要な役割を持ちます。単なる作業の遂行ではなく、「誰と何をするか」が価値基準となるでしょう。
■収入の再定義:経済モデルの変革
「収入を得る」という概念自体も変化し、「お金とは何か?」という問いが再考されることになります。
- ベーシックインカムの導入可能性:
労働による所得獲得が困難になると、政府や経済システムが「最低限の生活保障」を前提とした新たなモデルを構築する必要があります。例えば、AIによる生産の一部を社会全体で共有し、労働を前提としない収入の仕組みが検討されるかもしれません。 - 価値を創る人への報酬モデルの再構築:
現在の資本主義では「市場価値のある労働に対して報酬が発生」しますが、今後は「社会貢献・創造活動」に対する報酬の仕組みが整備される可能性があります。例えば、文化活動や教育、コミュニティ運営のような「役割」に対して報酬が支払われる仕組みが生まれるかもしれません。
■「役割」の選択肢を増やす
無報酬であっても「貢献できること」を持つために、社会の支援体制も重要になってきます。
- 「自己表現の場」としての活動:
収入を得るための労働から解放されることで、人間はより自由に「何をしたいか?」を選択できるようになります。例えば、創作活動や教育、社会支援活動などが「役割」として認知される未来が考えられます。 - 「知識・経験を活かす場」の形成:
AGIが情報を持っていても、人間には「経験知」があります。特定の経験を活かして他者と交流し、知識や価値を提供する仕組みが社会の中心になるかもしれません。
■「役割があること」自体が社会的な価値を持つ
社会構造が大きく変わる中で、価値の基準も変化します。つまり、「収入を得ること」が評価されるのではなく、「どんな役割を持っているか?」が重要になる社会が形成される可能性があります。
- 「役割のある人」=尊重される人:
AI時代において、人間の存在意義は「いかに機械と異なる価値を生み出すか」にかかっています。そのため、社会的に意味のある活動をしている人が尊重され、評価される構造が生まれるかもしれません。
「2. 情報格差から「質問力格差」への転換」への備え
――哲学・歴史・アートなど、思考の幅を広げる学びを重視し、「何を知るべきか」「何を問うべきか」を探究する思考訓練を行う。
■「知識」から「問い」へ——学びの目的の転換
AGIが膨大な知識を即座に提供できるようになることで、単なる知識の獲得よりも「何を問うべきか?」を探究する能力が重要になります。そのため、学びの目的が「情報の暗記」から「思考を拡張すること」にシフトするでしょう。
- 哲学の重要性:
哲学は「そもそも、何が問いとなるべきか?」を考える学問です。例えば、「知識とは何か?」「真実とはどう定義されるか?」といったメタ的な視点を持つことで、AGIの答えを鵜呑みにせず、自分なりの視点を構築できるようになります。 - 歴史から問いを学ぶ:
歴史は単なる過去の記録ではなく、「なぜこの出来事が起こったのか?」「どんな選択が可能だったのか?」と問うことで、未来へのヒントを提供します。歴史を学ぶことで、単なる因果関係を超えた問いの設計ができるようになります。 - アートによる思考の拡張:
アートは答えが一つではなく、解釈の余地を大きく持つ分野です。「この作品が表しているものは何か?」「作者の意図とは別に、どのような見方が可能か?」といった問いを立てることで、知識の活用ではなく、創造的な思考が鍛えられます。
■「問いを立てる力」は新たな知的格差を生む
AGI時代には、「情報の量ではなく、質問の質」が個人の知的優位性を決めることになります。その結果、社会的な格差も「知識格差」から「質問力格差」に移行する可能性があります。
- 浅い質問 vs 深い質問の差:
例えば、AGIに「AIは社会にどんな影響を与えますか?」と問うのと、「AIによる労働市場の変化が、社会心理にどんな影響を与えるか?」と問うのでは、得られる情報の質が大きく異なります。このように、深い問いを立てられる人ほど、AGIを最大限活用できる時代になるでしょう。 - 「答えの意味」を考える力:
AGIが提供する情報は膨大ですが、その中から「どの情報が価値を持つか?」を判断する能力が求められます。知識を活用するだけでなく、「この答えは本当に有用か?」と問い直すことで、より質の高い思考が生まれます。
■「質問力」を鍛える具体的な習慣
思考を深め、質問力を高めるためには、以下のような習慣が役立ちます。
- 毎日の「問いリスト」を作る:
その日の出来事や読んだ本から、「これはどんな問いを生むか?」を記録しておくと、思考を広げるトレーニングになります。問いを蓄積することで、「何を問うべきか?」のセンスが磨かれます。 - 「問いを問い直す」トレーニング:
一度立てた問いを別の視点から再構築する習慣を持つことが重要です。例えば、「AIは教育をどう変えるか?」と問うだけでなく、「教育の目的は何か?」「AIによる変化は、その目的に適合するか?」と問い直すことで、より深い議論が可能になります。 - 対話の場を持つ:
自分一人では気づかない視点を得るために、哲学的対話やディスカッションを行うことが有効です。他者の問いを聞くことで、自分の問いの枠を広げることができます。
■「知ること」ではなく「問うこと」を社会の基準に
AGI時代において、知識の価値は相対的に低下し、「どのような問いを立てられるか」が知的活動の中心になります。この変化を受けて、教育・社会システムも次のように変わるべきでしょう。
- 教育の変革:
現在の教育は「知識を教えること」が中心ですが、今後は「問いを立てる力」を育てるカリキュラムが必要になります。哲学・批判的思考・創造的対話を組み込んだ教育が重要になるでしょう。 - 「問いを競う」社会へ:
知識量を競うのではなく、「最も鋭い問いを立てられるか?」が評価基準となる未来が考えられます。例えば、企業の採用や研究の評価も「どれだけ深い問いを持てるか?」が判断材料になるかもしれません。
「3. 人間らしさ=非合理性・身体性の価値の再評価」への備え
――「好き」「楽しい」「感動する」「一緒にいると落ち着く」…こうした非合理な行動や身体的な体験を大切にする習慣を築く。
■「好き」「楽しい」を追求することの価値
合理的な判断のみに頼る世界では、人間の感情や直感が軽視される危険性があります。しかし、人間にとって「楽しい」「ワクワクする」という感覚は、ただの娯楽ではなく創造力の源です。
- 無駄の中にこそ価値がある:
AGIは最適化を追求しますが、人間は「効率性では測れない価値」を楽しむ存在です。例えば、回り道の散歩や気まぐれな旅行計画が、予想外の発見を生むことがあります。 - 直感が創造を生む:
「好き」と感じることを大切にすることで、新しいアイデアや価値観が生まれます。何かに心が引かれる瞬間を軽視せず、自分自身の感覚に従う習慣を持つことが重要になります。
■「感動する」経験を積み重ねる
AGIは感情を持たず、論理的に情報を整理します。しかし、人間の持つ「感動する力」は、個人の成長や社会の活力に直結します。
- 感動を意識的に増やす:
美しい景色を見たときや、心を揺さぶられる音楽に触れたときの感覚を大切にすることが、AIにはない「人間らしさ」を育むことにつながります。 - ストーリーを体験する:
映画や物語、演劇を鑑賞することで、人間の感情に深く共鳴する経験を積むことができます。AIにはない「共感の力」を磨くことが、これからの時代に必要な素養となります。
■ 「一緒にいると落ち着く」関係を築く
AGIとの対話が増えれば増えるほど、人間同士のつながりの価値が再評価されるでしょう。特に、非合理な「安心感」を得られる関係性が、人間らしさを守る鍵になります。
- 人との対話の時間を意識的に増やす:
AGIと情報交換するだけでなく、人間同士で深い対話を持つことで、「人間であること」の意義を感じられるようになります。共感し合う時間が、感情の豊かさを保つ役割を果たします。 - 「何もしない時間」を共有する:
AIは常に効率的な判断を求めますが、人間同士で「ただ一緒にいるだけの時間」や「目的のない会話」を大切にすることで、安心感や信頼関係を強化できます。
■身体性の価値を見直す
AGIには身体がなく、物理的な世界の感覚を持つことができません。だからこそ、人間は「身体を通じた経験」を積極的に取り入れるべきです。
- 運動を習慣化する:
身体を動かすことは、論理的な思考を超えた「生きている実感」をもたらします。スポーツやダンス、散歩を日常に取り入れることで、身体性の価値を再確認できます。 - 五感を使う活動を増やす:
料理や絵画、陶芸など「手を動かす」活動をすることで、AGIには体験できない「身体的な創造性」を育むことができます。
■「遊び」を大切にする習慣
AIは計画的に最適解を求めますが、予測不能な「遊び」こそが人間の創造力や生きる力を引き出します。
- ルールに縛られない活動を取り入れる:
予定通りのスケジュールに従うのではなく、時には思いつきで行動したり、新しい挑戦をすることで、AIにはない偶発的な体験を楽しむことができます。 - 想像力を育むゲームやアートを楽しむ:
AIが戦略的に分析する一方で、人間は「決められた答えのない遊び」を楽しむ能力を持っています。創造的な活動に時間を割くことで、人間らしい感性を磨くことができます。
「4. 社会制度の大変革(教育・雇用・福祉)」への備え
――複数のキャリアや居場所を持つ「マルチプレーヤー型」の生き方を準備。会社外のつながり(コミュニティ、地域、オンラインサロン等)を増やす。
■「職業=収入源」ではなく、「役割=価値創出」へ
従来の労働モデルが「経済的な生存手段」として機能していた一方で、AGIの発展によって労働の必要性が相対的に低下します。そのため、「どんな価値を提供できるか?」が個人の活動の中心になり、「複数の役割を持つこと」が求められる時代へと変わっていくでしょう。
- 単一のキャリアに依存しない発想へ:
企業に所属し、一つの職業で生計を立てるというモデルは徐々に崩壊し、個々人が複数の活動を組み合わせながら価値を提供する形態が一般化するはずです。 - 「専門性×横断的スキル」の重要性:
例えば、技術職の人が教育活動を行う、アートを通じて社会貢献する、哲学の視点を活かしてビジネス戦略を考えるなど、一つのスキルに閉じるのではなく、領域を超えて活動することが新しい社会モデルでは重視されるでしょう。
■「会社外のつながり」を増やすことの戦略的価値
従来のキャリア形成では「会社に所属し、企業内ネットワークを築くこと」が主流でしたが、AGI時代には「組織を超えたつながり」が個人の生存戦略として必要になります。
- コミュニティへの参加:
会社以外の場所に複数の所属先を持つことで、「仕事の枠」を超えた役割を獲得できます。地域活動やオンラインサロンなどに積極的に関与することで、新たな価値提供の可能性が広がります。 - オープンネットワークの活用:
個人の活動を企業単位ではなく、グローバルなネットワークの中で展開することで、知識や価値の交換が活発になります。特にオンラインの活用が重要になり、ブログ・SNS・フォーラムを通じて知識を共有することが影響力の構築につながるでしょう。 - 「つながり=新しい役割の創出」:
AIが労働を代替する時代には、人との交流から新たな役割が生まれることが重要になります。偶然の出会いや対話の中から新しい可能性を見出し、自己の価値を社会と接続していくことが「生きる力」となります。
■「価値の転換」に備える
AGI時代には、「どんなスキルを持っているか?」よりも、「どんな価値を生み出せるか?」が重要になります。そのため、変化に適応できる柔軟性を鍛えることが必要です。
- 「技術力」だけでなく「対話力」を磨く:
AIが知識を処理できる一方で、「人間同士の対話」や「アイデアの共有」は依然として人間の強みになります。コミュニケーション能力が、これまで以上に重要なスキルになるでしょう。 - 「何が求められるか?」を常に問い直す:
社会の変化が早いため、「何が価値を持つのか?」を定期的に見直し、柔軟に役割を調整する力が必要になります。特定の分野だけに閉じず、広い視点を持つことが大切です。 - 新しい「価値基準」を理解する:
「どのような活動が評価されるのか?」という価値基準は変化します。例えば、労働そのものではなく、「人間らしさ」や「社会的貢献」が評価される社会になれば、価値の創出方法を変えていく必要があります。
■「自己実現型社会」への適応
AGI時代には、「生計を立てるために働く」のではなく、「自分が何をしたいのか?」を中心に生きる社会へと移行する可能性があります。そのため、以下の準備が有効になるでしょう。
- 「好きなことを軸に活動する」マインドセットを持つ:
生存のために働くというモデルではなく、自分自身が何を探求したいか?を問い続けることが重要になります。 - 時間の使い方を変える:
労働時間が減ることで、「余暇の使い方」が社会の中心になります。何を学び、どのような経験を積むかが、社会的評価につながる時代になるでしょう。 - 「新しい役割を設計する力」を持つ:
AGIの普及によって既存の仕事が消滅する中、「どんな新しい役割が必要なのか?」を考え、それを設計できる能力が求められます。例えば、AIを活用した新たな教育モデルを構築したり、AI時代に求められる倫理的判断を行う専門家としての役割を確立するなど、「新しい社会に必要な活動」を見つける力が重要になります。
「5. 「存在意義」の危機(メンタルヘルス問題)」への準備
――「成果」や「生産性」よりも、「人との関係性」や「自分の物語」を重視するマインドセットを持ち、内省・対話・感謝・ナラティブ(物語)思考を育てる。
■「成果」よりも「人との関係性」を中心に
AGI時代には、仕事の効率性や成果ではなく、「誰とどんな関係を築くか?」が幸福や充足の中心になっていきます。人とのつながりはAIには代替できない領域であり、それこそが人間の強みです。
- 「関係性の質」が人生の豊かさを決める:
これまで「どんな仕事をしているか?」が個人の評価軸でしたが、今後は「誰とどんな関係を築いているか?」が個人の価値を決めるようになるでしょう。仕事の有無ではなく、「人との交流」「共感」「信頼」が重要視される社会へシフトしていくはずです。 - 「共創型コミュニティ」の重要性:
AIは膨大な知識を持ちますが、「人と人が一緒に何かを創る」という経験は再現できません。そのため、共同作業やコミュニティ活動が、存在意義を感じる場として今後さらに注目されるでしょう。
■「内省」を習慣にし、自己理解を深める
AGIによって外部からの情報は簡単に得られる時代だからこそ、「自分自身は何を求めているのか?」を内省する習慣を持つことが重要になります。
- 「忙しさに流されない時間」を意識的に持つ:
AIが仕事を代替し、情報が瞬時に得られる時代では、「ただ受け取るだけ」ではなく、自分なりの思考を深めることが価値を持つようになります。日々の生活の中で「考えを整理する時間」を持つことが、自己理解を深める鍵となるでしょう。 - 「問いを持つこと」の重要性:
「私は何をしたいのか?」「私の価値はどこにあるのか?」といった問いを持ち続けることで、自分が果たすべき役割を見つけるヒントが得られます。人生の目的を問い続けることが、自分の存在意義を確立するために不可欠となります。
■「感謝」の視点を持ち、心の豊かさを育む
AGI時代には「人間らしさを育むこと」が何よりも重要になります。その中で、日々の生活に「感謝」の視点を持つことが、精神的な充実につながるでしょう。
- 「社会とのつながりに感謝する」習慣を持つ:
AIが自動的に多くのことを処理する時代だからこそ、人間同士の関係性が特別なものになります。例えば、対面での会話、食事を共にする時間、友情や家族とのつながりは、単なる社会的な活動以上の価値を持つことになります。 - 「感謝を伝えること」が生きる目的になる:
労働が減少する時代には、「どう価値を生むか?」が人間の課題になります。その中で、周囲の人に感謝を伝えることが、最も大切な活動の一つになり得るでしょう。たとえ経済活動ではなくても、「人を幸せにする行動」は新しい存在意義となるかもしれません。
■「ナラティブ思考」を育て、自分の物語を持つ
AGIが社会の中心になりつつあるからこそ、「自分自身の物語」を持つことが重要になります。「自分の人生は何のためにあるのか?」を問い、ストーリーとして描くことが、今後の生き方の指針になるでしょう。
- 「人生のストーリー」を意識する:
「自分はどんな経験をして、どんな価値を生んできたのか?」という視点を持ち、それを物語として捉えることで、存在意義を再確認できます。単に「仕事をしているから価値がある」という発想ではなく、「自分の人生にはどんな意味があるのか?」という問いが、今後の社会でより重要になります。 - 「他者と物語を共有する」ことが価値を持つ:
これまでは「仕事の成果」や「社会貢献の形」が個人の価値を測る指標でしたが、AGI時代には「人との物語を持つこと」が重要になります。他者との経験を共有することが、存在意義を強化する手段となるでしょう。
■「人間らしさ」の再評価を進める
AGIの進化によって、合理的な判断や生産性はどんどん向上していきますが、それでは測れない「人間ならではの価値」が見直される時代が来ます。
- 「非合理性」の価値を認める:
AIは最適解を出しますが、人間は「意外性」や「偶発的な経験」から価値を生むことができます。この偶然性や創造性こそが、人間の持つ独自の能力です。 - 「人間の役割=感性の伝達」へ:
AGIが情報の処理を行う一方で、人間は「感情を共有すること」や「直感的な判断をすること」に価値を見出す時代になります。人と人が直接交流し、感性を伝え合うことが、新しい生き方の中心になるでしょう。
ただ、これらの「備え」はいずれも、直ちに金銭的なリターンを生むものではないように見えます。「問いを立てる力」も「身体性の重視」も「物語の再構築」も、経済的には“今すぐお金になるスキル”とは限りません。
では、こうした備えをした人間は、果たして「貧しくなってしまう」のでしょうか?
新たな「豊かさ」と新たな「貧困」
たしかに、短期的には貧しく見えるかもしれません。しかし、長期的にはむしろそれこそが、未来の生存戦略になると考えます。
理由①:AGIが“稼ぐ”役割を代替するようになるから
効率よくお金を稼ぐスキルは、AGIの方が得意です。だからこそ、人間が“お金では測れない価値”を担う存在になることに意味があります。芸術、コミュニティ形成、ナラティブ創造、倫理判断など、経済的合理性を超えた次元の活動が重要になります。
理由②:“お金以外の価値”が再評価される社会が始まるから
「自由時間」「つながり」「意味」…これらが新たな“富”として認識されるようになります。AGIの普及に伴い、ベーシックインカム的な富の再分配も現実味を帯び、「お金のために働く」から「意味のために動く」へのパラダイムシフトが起こります。
理由③:「貧しさ」の定義自体が変わっていくから
「お金がない=貧しい」という旧来の定義から、「意味がない」「孤立している」といった新たな貧困の概念へと移行する可能性が高いです。「好きな仲間と、意味ある活動をしている」人が、収入が少なくても「豊かに生きている」と感じられる社会設計も可能になります。
一方で、金儲けだけを追い続け、AGIにスキルを上回られた結果、存在価値を見失った人々は「富はあっても、意味がない」という、別の深刻な“貧困”に直面することになるでしょう。
これからの「お金」
「お金」はこれまで、以下の3つの役割を担ってきました。
- 価値の交換手段:商品・労働・サービスとのやりとりをスムーズにする
- 価値の尺度:物事の価値を数字で比較できるようにする
- 価値の保存手段:時間を超えて蓄えることができる
しかし、AGIとテクノロジーの進化により、これらの前提は大きく揺らぎつつあります。
「お金がいらない世界」は到来する?
労働の必要がなくなれば、価値交換手段としてのお金は不要になります。近い将来、AGIとロボティクスが労働の大半を担い、食料・衣服・住居がほぼ自動生成(例:3Dプリンター、垂直農業)されるようになれば、ベーシックインフラは「ゼロマージナルコスト(=ほぼ無料)」になる可能性があります。
そのような世界では、「物を得るために働く」という構造が崩壊し、お金を介さず、“配給”や“アクセス権”で生活が回るようになるでしょう。
さらに、ブロックチェーン技術の進化によって、「信頼」や「行動ログ」が資産化されるようになると、「この人は感謝されている」「社会に貢献している」といった情報が可視化され、信頼・ネットワーク・評判が“新しい通貨”として機能していくことが予想されます。
加えて、すでに進行中の「所有からアクセスへ」という価値観の転換…車や家、服や本などがサブスクリプション化・共有財産化する流れが加速すれば、「買う必要」が減り、お金の役割は縮小していくはずです。
人間の欲望や「貯めたい」という本能がある限り、完全にお金が消えることはないかもしれませんが、少なくとも「お金」の定義や使われ方は、大きく変化することでしょう。
AGI時代への準備とこれからの人間のテーマ
AGIの登場により、この世界がどう変わるか。上で色々と予測してみましたが、正確なところはAI研究のトップランナーたちにもわからないそうです。ひとつだけ確かなのは、AGIの登場が単なるテクノロジーの進化ではなく、「人間とは何か?」を根本から問い直す出来事である、つまり、人類にとって未曽有の大転換点となる、ということです。
これまで人類は、「価値を生み出す存在」として、知識を増やし、技術を磨き、生産性を高め、効率を追求してきました。それが「生きる力=稼ぐ力」であり、社会的成功の証でもありました。
しかし、AGIがあらゆる知的業務を代替しうる今、その前提は崩れ去ろうとしています。AIの方が速く、安く、正確に、論理的に動ける世界が、もうそこまで来ているのです。
では、その時代に人間は何者であるべきか?
それは、「生きる意味をつくる存在」であることです。ナラティブを語り、他者と感情を共有し、不完全さや非合理さを抱えながら、それでも“誰かにとって意味ある存在”として生きることです。
これからの時代、人間の価値は「どれだけ稼げるか」ではなく、「どれだけ誰かにとって、意味のある存在になれるか」で測られるようになるでしょう。
つまり、人間の未来とは、「意味を生み出し、共有し、分かち合う存在になること」です。
そのために我々個人個人が今行うべき準備は、上で述べた通り、決して難しいことではありません(社会制度の整備は別です。以前こちらでも述べた通り、政府は「起きてから」ではなく、「起きる前に」の観点で必要な制度を構築していかなくてはなりません)。
――隣の誰かに声をかける。
――心から夢中になれるものを探す。
――小さな「ありがとう」を、日々集める。
間近に迫るAGIの登場に際し、今こそ「不完全さ」や「人間らしさ」にあらためて焦点を当て、それを具体的な行動へとつなげることが求められています。
BBDF 藤本