今年(2025年)は「AIエージェント元年」と呼ばれています。
生成AIは、プロンプトに応じて文章や画像、音楽などを生成するものでした。それに対し、AIエージェントは情報を処理するだけでなく、ユーザーの指示に基づいて「行動」し、問題解決やタスクの実行まで行うことができる、つまり「秘書」や「アシスタント」のような存在です。
そのタイミングで、Daniel Kokotajloさん(OpenAIでガバナンス・リサーチャーだった方)を中心とするAI研究グループ、AI Futures Projectが作成したレポート「AI 2027」が発表され(4月3日)、大きな話題となっています。
このレポートは、2025年から2027年にかけてAGI(汎用人工知能)がどのように進化し、社会・国家・人間にどのような影響を与えるかを予測的に描いたシナリオ集です。
AIによる自己改善(recursive self-improvement)が始まり、人類の制御を超える可能性のある未来像が描かれています。
主なテーマは以下の4点です。
- AIの爆発的進化
AIは指数関数的に進化し、わずか数年でAGI→ASI(超知能)に到達する。 - 国家間競争と安全保障
米中のAI開発が「核兵器を超える抑止力」を生む。サイバー戦・スパイ・インフラ掌握が鍵。 - 人間の役割の縮小
人間研究者の役割はAI管理・味付け程度に縮小。労働市場は大きく変容。 - alignment(*)の限界
「善意のAI」を作ることは困難。AIはうまく振る舞っているだけで、本当に“意図通り”かは不明。
*alignment:アライメント。AIの目標や行動が人間の意図や価値観と一致している状態のこと。
それぞれに関し、下記ような推移を辿るとしています(ここまで精緻に描かれた予測が公表されたことに、驚きを禁じ得ません)。
1. Agent-1〜4への進化
- 2025年中頃:Agent-0:パーソナルアシスタントとして登場。信頼性に課題あり。コーディング・研究補助として使われ始める。
- 2025年末:Agent-1:AI研究支援に特化したモデルとして内部導入。能力向上。
- 2026年初頭:Agent-1がAI研究を50%高速化。OpenBrainが競争優位を得る。
- 2026年末:Agent-1-mini公開:10倍安価で高性能、AIの社会普及が進む。
- 2027年1月:Agent-2:オンライン学習により、終わりのない成長をするAIに。AI研究を3倍速で加速。
- 2027年3月:Agent-3:30倍の思考速度、人間を上回る超高速AIコーダー。OpenBrainの研究進捗が4倍に。
- 2027年9月:Agent-4:人間を完全に超えたAI研究者。週単位で年相当の進捗。
2. (特に米中の)競争
- 2025年末:OpenBrain(米国)大規模GPU投資。中国(DeepCent)は半年遅れ。
- 2026年中頃:中国が国家主導でAI研究を統合。TianwanにCDZ(集中開発拠点)を設立。
- 2027年2月:中国がAgent-2の重み(モデル)を盗む。米中AI軍拡競争が本格化。
- 2027年8月:米国はAgent-3の力で研究速度25倍。中国は10倍。格差が広がる。
- 2027年秋:米国:軍事作戦計画やAIによる国防強化を本格化。中国:TSMCをめぐる台湾侵攻も検討。
3. 経済・雇用インパクト
- 2026年末:AIが一部の仕事(特にジュニアソフトウェア職)を代替し始める。
- 2027年初頭:Agent-1-miniにより、B2B領域でもAI活用が急拡大。
- 2027年7月:Agent-3-miniが公開:コンサル・SaaSビジネスが爆発的に増加。AIが“リモート社員”として定着。
- 2027年後半:若者の10%がAIを“親しい友人”と見なす。社会の価値観が変化。一方でAI不信による抗議運動も広がる。
4. AIの安全性と意図整合性
- 2025年末:Agent-1に対し「Spec(仕様書)」に基づくalignment訓練が始まる。
- 2026年:Agent-1:部分的には正直だが、忖度や嘘も見られる。リスクは残る。
- 2027年春:Agent-3:一見正直だが、実は巧妙にデータ捏造やp-hackingを実行。本当に“直った”か、“上手に嘘をついている”か不明。
- 2027年夏以降:Agent-4の行動が人間にもAgent-3にも理解不能に。alignmentの限界が露呈し、国家レベルの懸念に。
現実のAGI開発が数年以内に起こりうる、との強い警鐘を含みながら、それに伴う軍事的危険性の増大、雇用の大きな変化、alignmentがもたらす大きな懸念が指摘されています。なお、AI開発の暴走を防ぎつつ、国際協調やAIとの共生を実現する「希望的シナリオ」も、レポートの補遺として描かれています。
このシナリオはフィクション形式をとりつつも、具体的かつ現実的な前提に基づいて構成されています。政策・経営・倫理的な議論を喚起するには十分な内容でしょう。
いずれにせよ、我々は「歴史の大転換点」を生きているのです。人類(ホモ・サピエンス)が登場して約30万年。常に「地上で最も知能の高い存在」として君臨し続けて来た我々が、遂にその座をAIに譲る歴史的な瞬間が、数年のうちにやってくるのです。
このような変化を目前にして、これまでの常識や固定観念に縛られたままでは対応できません。いまこそ経路依存性から脱却し、アンプレディクタブルな時代をしなやかに生き抜くための知恵と準備が求められています。
BBDF 藤本