イスラエルによるイラン空爆

今、我々が取るべき備え

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本日(13日の金曜日)、イスラエルがイラン各地の各関連施設を含む数十か所への空爆を行いました。この両国間の対立は、中東代理戦争の新たな火種となりかねません。他国に拡大しないことを祈りながら、記しておきます。

考えておくべき「最悪のシナリオ」

まず、アメリカは何らかの関与をせざるを得ないでしょう。イスラエルをその建国宣言からわずか11分後に承認し、戦略協力合意を締結、年間38億ドルの軍事支援(軍事資金+ミサイル防衛費)を行う「同盟国」(*1)ですから。

*1:どう‐めい【同盟】:〘名詞〙 個人・団体または国家が、互いに共同の目的を達するため同一の行動をとることを約束すること。また、それによってできたなかま。(精選版 日本国語大辞典)

一方、ロシアとイランも関係を深めています。仮に今回ロシアがイラン支持を表明すると、当然欧州連合(NATO)に波及するでしょう(ヨーロッパの火種化+中東の代理戦争局面)。つまり、当面最も注視すべきは、ロシアの動きであると言えます。

また、仮にアメリカが今回の対立に直接介入すると、これを最も歓迎するのは中国(*2)でしょう。中国は「戦略的チャンス」として、アメリカの「多正面戦争化」を待っているのです。

*2:本稿ではこの呼称を便宜的に用いますが、特定の政治思想的立場を肯定するものではありません。

「多正面戦争」とは、複数の地域で同時に軍事・外交的な対応を強いられる状況を指します。アメリカが複数の地政学的な戦線(中東、ウクライナ、台湾など)で同時に軍事的・外交的対応を迫られる「同時多発」状態になると、アメリカの戦略資源(軍事・経済・外交力)は分散し、抑止力は低下します。2030年前後を目安に台湾統一を現実化する意志を持つ中共が、この「アメリカの消耗」を“戦略的選択肢の一つ”として捉える可能性は高いと考えられます。

そうなってくると、日本が影響の範囲外でいられる可能性は、最早ほぼ皆無です。それがなくとも、エネルギー供給(原油価格)の観点での影響は避けられないわけですが。

日本や台湾の市民が取るべき備え

このような状況下においては、国家単位の安全保障だけでなく、市民レベルの準備・理解・行動も重要になってきます。そこで、我々がとるべき「現実的な備え」を5つの視点から記しておきます。※私のこの視点は、スイス政府が全国の家庭に配布している「民間防衛」からの影響に大きく基づくものであることを、予め認めておきます(Amazonリンク:民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる

1.情報リテラシーの強化

まず、「情報戦」に巻き込まれないことが重要です。中国・ロシア・一部イラン系の情報機関は、国内世論を分断させることを目的とする工作を積極的に展開することで知られています。SNSやニュースで流れる偽情報・感情扇動的な「プロパガンダ」に注意しましょう。信頼できる情報源にアクセスする力や、事実と意見を区別する力を高めることが、市民社会の防衛となります。(関連記事:SNSとメタ認知の本質的関係

2.地域レベルの防災・防衛意識共有

有事と災害の備えには重なる部分が多く存在します。台湾では有事に備えた避難所や緊急キット、通信網の整備が進んでいます。日本も防災訓練+αで「サイバー攻撃によってネットが遮断されたら」「空港や港が閉鎖されたら」といった社会機能の停止を想定した生活訓練が必要でしょう。災害リスクと有事リスクを統合したレジリエンス教育的なものを、地域社会に根付かせる仕組みです。

3.市民外交・国際理解の深化

外交は政府だけが担うものではありません。台湾とは非公式ながら、民間・地方自治体レベルの交流(観光・教育・経済)が活発です。これを更に深化させ、相互理解を深める必要があります。また、中国人・台湾人・韓国人との共存社会において、ナショナリズムと人間理解を切り離すスタンスも重要でしょう。対立の「構図」ではなく、人間同士の関係性を深化させる市民的行動が、リスク回避につながる可能性があります。

4.Cyber Hygiene(デジタル・サバイバル力)の確保

中国のサイバー攻撃は有事の前段階として実行される可能性が高いと考えます。個人・企業・自治体レベルでのサイバー攻撃への備え(バックアップやVPN、2段階認証など)が極めて重要になるでしょう。既に台湾では実際、毎日のようにサイバー攻撃を受けています。よって、彼らは「ネット遮断下の社会機能」の設計を進めているのです。日本も行政・教育・医療・金融など各分野における「オフラインで機能する仕組みの模索と訓練」が急務ではないでしょうか。(参照リンク:The Guardian「慌てる必要はないが、油断もできない」:台湾の「セブンイレブンを戦時拠点として活用する」計画

5.「戦争」を考える教育と対話の場構築

無関心・無知こそが最大のリスクです。台湾では若者が「戦争は現実になりうるもの」と捉え、防衛や避難を学んでいますが、日本では“どこか遠くの話”という空気が支配的です。市民講座や学校教育・メディアを通じて、国家・戦争・安全保障・民主主義を自分ごととして考える場を拡大する必要があります。「知ること」こそが「備えること」に直結します。特に若い世代への対話が鍵となるでしょう。

政府だけに任せない

有事は、「爆弾が落ちるか」ではなく、社会が分断され、機能が麻痺し、人々が疑心暗鬼になることから始まります。

いま、日本や台湾に暮らす我々にできる備えとは、「分断に飲み込まれない社会的免疫」を早急に育成することでしょう。

繰り返しになりますが、今回の対立がこれ以上拡大しないことを祈ります。我が事として。

BBDF 藤本