ASI時代、前例の延長で未来は築けない
今朝(2025年12月10日)の日経新聞「超知能」特集。その見出しは強烈だった(リンク:日本経済新聞)。
「前例踏襲するだけの人材は不要」
この言葉は、現代のBANI(Brittle, Anxious, Nonlinear, Incomprehensible)な世界において、政治・経済・経営、さらには日常生活のあらゆる場面にまでそのまま当てはまる。
AIがASI(Artificial Super Intelligence/超知能)へと進化する時代、過去の“焼き直し”だけでは未来を築けない。人間が未来に関与し続けるには、早い段階で「これまでの常識を疑う」姿勢が不可欠だ。
日本企業がAI/BANI時代に脆い理由:経路依存性という罠
私が長年訴えてきたように、「経路依存性からの脱却」こそが、生き残りの鍵である。
日本企業がAI/BANI時代において脆弱なのは、高度成長期という“成功体験”から抜け出せなかったからだ。その結果が「失われた30年」である。
環境が激変しても旧来の戦略を踏襲し、過去の制度を「変えてはいけないもの」として神聖視する。未曾有の技術変化を前にしても、“想定内”で判断しようとする日本企業と社会。
記事では、韓国財閥の事例を引き合いに「競合・市場分析などの一部はすでにAIに代替され始めている」と指摘されている。AI時代においては、人間の価値は「知識の保有」ではなく、「判断軸を構築する力」へと移行する。
つまり、過去の成功モデルは通用しない。必要なのは、ゼロから問いを立て直すリーダーシップだ。
「常識を疑う力」こそが“ゼロイチ”の創造を可能にする
記事では、韓国やエストニア、日本の教育改革が紹介され、共通して次のメッセージが強調されている。
「求められるのは、ゼロからイチを創造できる人材だ」
まさにその通りだ。しかし、ここで極めて重要なのは、「本当に“0→1”を生み出せる人材など、2~3万人に1人いるかどうか(多く見積もって)」という現実を直視することだ。
これは才能の問題であり、同時に経験の問題でもある。少なくとも、AI教育やスキル学習だけで簡単に育成できる能力ではない(この「ゼロイチの難しさ」については、7月のAGIイベントでも取り上げた。ぜひレポートをご覧いただきたい。リンク:「AGI時代到来!人間はどう備えるべきかー技術革新の先にある人間の知性と創造性ー」)。
知識をどれだけ積み上げても“ゼロ”にはならない。
正解を探す姿勢では“イチ”は生まれない。
既存の枠組みを疑わないと「ゼロ地点」にすら立てない。
ゆえに、「ゼロイチ人材を育成せよ」というスローガンやAI教育だけでは、何も変わらないのだ。
ゼロイチ人材とは誰か?
「常識を疑い、ゼロからイチを創造する」とは、突き詰めれば哲学的態度であり、芸術的想像力のことだ。
哲学者は「世界の前提」を疑い、問い直す。
アーティストは「今ここにない形」を創造する。
リベラルアーツは「別様の見方」を与えてくれる。
つまり、教育改革が目指すべきは、哲学・芸術・リベラルアーツの再評価である。
日経記事の背後には、国家レベルの危機感がある。しかし日本では、リベラルアーツは依然として「役に立つ/立たない」の二元論で語られがちだ。
ゼロイチ思考の土壌を育てるには、まずリベラルアーツの価値を再認識することから始めなければならない。人間の価値が「知識の保有」から「判断軸の構築」へと移る今、その源泉はまさにリベラルアーツにある。
「取ってつけた改革」では、もう間に合わない
記事では、韓国の若年層の閉塞感や日本の教育改革の動きが紹介されているが、それらは氷山の一角にすぎない。日本の現状はこうだ。
- 国民全体が「過去の延長線」を無意識に信じている。
- 組織文化が“慣性”で動き続けている。
- リーダーが現実を直視せず、表面的な施策だけを並べている。
日本の若者は希望を失い、若年層の死因の第1位は「自殺」である。もはや 「それっぽい施策」だけで何とかなる段階は、とっくに過ぎている。
私たちに求められるのは、観念的な「明るい未来」ではない。「楽しい日本」でもない。まず、厳しい現実を“ありのまま”受け止める勇気だ。
日本企業が今こそ学ぶべき思考フレーム
いま日本社会に早急に普及させたいのが、BANI/BANI+の概念である。
まずは、BANI:
Brittle(脆弱な)
Anxious(不安な)
Nonlinear(非線形な)
Incomprehensible(理解不能な)
というフレームが、現代の絶望的な厳しい現実を直視し、理解するための出発点となる。
そして、Positive BANI(BANI+):
Bendable(しなやかな)
Attentive(気配りのある)
Neuroflexible(神経の柔軟な)
Interconnected(相互接続の)
という指針を用い、絶望を未来へと転換するのだ。
これらはすべて、
「常識を疑い、別の見方をつくる力」
「世界の前提を刷新する力」
「既存の経路から抜け出す力」
につながっている。
日本企業がまず身につけるべきは、このBANI/BANI+を用いた“認知的アップデート”であると、私は確信している。
思考の再起動こそ、未来を創る第一歩。
常識を疑う勇気こそが、AI/BANI時代の最大の競争力となる。
日本が再び「未来を創る国」になるためには、まず“思考”を再起動させなければならない。
人間×AI共進化ストラテジスト/HRアーキテクト
藤本英樹(BBDF)
※経路依存性からの脱却、リベラルアーツの重要性については、こちらの記事もぜひお読みください。(TaskとCreationの二分法:改めて考える「仕事とは何か」)

