「Task」と「Creation」の二分法

改めて考える「仕事とは何か」

· Business,Insights

「AIエージェント」の登場が示す時代の分水嶺

「AIエージェント元年」と呼ばれた2025年もあと2か月足らず。2026年は“AIエージェントの普及期”となります。AIは単なる「道具」から「同僚」へと進化し、職場に深く入り込む存在となるのです。(2025年11月9日 日本経済新聞「AIエージェントが雇用直撃 2026年はスーパーカンパニー出現か」

今やAIは、質問に答えるだけでなく、調査し、文書を作り、メールを送り、請求書を処理します。こうした一連の業務は、かつて“人間の仕事”とされていた領域そのものです。

ここで私たちは立ち止まり、「仕事とは何か」という問いに向き合う必要があります。

「Task」と「Creation」という新しい二分法

AIの進化は、「人間の仕事」の再定義を迫っています。 私はそれをこう言い換えたいと思います:

AIは「Task」を担い、人間は「Creation」に専念する時代

「Task(作業)」とは、過去の再現であり、手順化・最適化が可能な領域です。一方、「Creation(創造)」とは、まだ誰も見たことのない価値を生み出し、そこに意味を与える行為です。

ルーティンワークや定型業務はAIが疲れず、迷わず、正確に遂行します。 人間の存在意義は、もはやその領域にはありません。

人間が担うべきは、“何のためにそれを行うのか”という目的意識、文脈、価値判断。つまり、「未来の意味づけ」こそが人間の仕事なのです。

経路依存性を断ち切る勇気

私たちは長らく、「Task」を中心に構築された社会構造の中で働いてきました。教育も企業制度も、「正確に・速く・ミスなく」こなすことを前提に設計されています。近代以降、ずっと「Task型人材」を量産し続けてきたため、今の世の中には、「Task型人材」を育てる仕組みが根深く残っているのです。

この構造的惰性こそが、「経路依存性(path dependency)」です。 過去の成功体験を“最適解”と誤認し、変化を拒む心理のこと。

AIは過去を最適化します。だからこそ、人間までが過去に囚われていては、創造が生まれる余地はありません。

この「経路依存性」という惰性を断ち切る勇気こそが、AI時代における最大の競争力となるはずです。個人にとっても、組織にとっても。

失われたリベラルアーツを取り戻す

この転換を支えるのが、リベラルアーツ(教養)です。

産業革命以降、人類は“生産性”と“効率”を最優先にしてきました。 その結果、芸術や哲学、文学といった領域は「非生産的」とされ、教育や企業研修から遠ざけられてきました。

しかし、AIが「Task」を代替する時代においては、この“非効率な知”こそが人間の「Creation」を支える力になります。

芸術は、感性による“新しい見方”を教え、
哲学は、前提を疑い“問いを立てる力”を鍛え、
文学は、他者の世界を想像する“共感の知性”を育てます。

これらはすべて、AIが持ち得ない“意味生成の能力”です。 だからこそ、リベラルアーツは再び「実学」としての価値を持つのです。

「Taskを超えて生きる」という選択

AIエージェントの登場は、技術革新であると同時に、人間に「どう生きるか」という哲学的問いを突きつけています。

これからの社会は、「Taskの効率」ではなく、「Creationの質」で評価される社会へと移行していきます。

人間が本来の知性を発揮できるのは、未知に踏み出す瞬間です。 AIが“過去の最適化”を担い、人間が“未来の意味づけ”を担う。 それが新しい分業の形であり、新しい人間の仕事観となります。

人間はTaskを奪われるのではありません。Taskから解放されるのです。

ルーティンはAIがこなす。意味を生み出すのが、人間。

この単純な真理を、社会全体で受け止めることができるか。 それが、AI時代を“人間の時代”として生き抜けるかどうかの分水嶺になるでしょう。

私たちは、Taskに縛られた過去から抜け出し、Creationに生きる未来へ踏み出さねばなりません。 その第一歩は、リベラルアーツを取り戻し、自らの思考を再び自由にすることです。

人間×AI共進化ストラテジスト/HRアーキテクト
藤本英樹(BBDF)