今朝の日経新聞に、「超知能」特集第3部の第2回記事「『1億総クリエイター』時代の創作」が掲載されています。(リンク:日本経済新聞)
芥川賞作家の九段理江氏は、約4000字の小説「影の雨」をGenAIに生成させるために、約20万字(50倍)のプロンプトを入力したそうです。妥当な数字でしょう。
正確なプロンプトを入力する言語能力さえ人間に備わっていれば、GenAIは小説も音楽も映像も、いとも容易く生成してくれる時代です。
言語能力の重要性
GenAIの急速な発展は、「作る人」と「使う人」の双方によって支えられています。そして「使う人」にとって最も重要なのは、言語能力です。つまり、AIに的確な指示(インプット)を「正しい日本語」で与えられるかどうかが決定的に重要なのです。(リンク:「我が国のAI活用を阻害する『最大の問題』とは?-後編-」)
今年4月に受講したGoogleのプロンプティング基礎講座(リンク:「問いに答えるAI、問いを立てる人間:GoogleのPrompt設計コースで得た学び」)において、私はこのように教わりました。
「Thoughtfully Create Really Excellent Inputs」
(思慮深く、本当に素晴らしいインプットを作ろう)
もちろん、これ自体は単なるスローガンに過ぎません。しかし、実はこの一文の頭文字(T、C、R、E、I)こそに、プロンプト設計の本質が凝縮されているのです。
T:Task ― ペルソナ(役割)と出力形式を指定する
C:Context ― 背景情報や文脈を含める
R:References ― 参考情報や具体例を加える
E:Evaluate ― 出力を評価し、改善余地を見つける
I:Iterate ― 反復し、改善を重ねる
この要素を忠実に実行したインプットさえ用意できれば、GenAIは確実に私たちの意に沿うアプトプットを返してくれます。
「便利なAI」最大の落とし穴
とはいえ、この1年でGenAIは驚異的に進化し、人間の曖昧な指示を補ってくれるようにまでなっています。そして、この便利さの裏側に潜むのが、「最大の落とし穴」です。
AIが意図を汲み取ってくれることに慣れてしまうと、人間の認知能力は必然的に低下します。「自分は何をやりたいのか」「何を実現したいのか」すら言語化できない人間に、AI時代での存在意義はあるでしょうか。
答えは明白です。「ありません」。
言語能力(T、C、R問題)だけではありません。GenAIの出力が当初期待していたものと異なる場合に、Evaluate(評価)もIterate(改善)も行わず、「まあいいか」と受け入れてしまうこと(E、I問題)も同様に危険です。このような受動的な人間のスタンスこそが、「AIに使われる人間」、つまり、ハラリのいう「無用者階級(Useless Class)」登場の兆しなのです。
つまり、AI時代の人間性を守るのが、Googleの提唱する「T、C、R、E、I」セオリーだと考えます。
GenAIによりアウトプットまでの時間が短縮されるからこそ、
・当初のアウトプットのイメージを明確化する(T、C、R)
・イメージと異なる場合は評価と改善を繰り返す(E、I)
このプロンプティング手法を怠らないことが、人間性を維持するうえで決定的に重要なのです。
問う力を失った人間の未来は暗い
SNSの普及により「長文を読めない人」が増え、短文ですら誤読する人も増えていると言われます。もし人間が「問う力」を放棄すれば、AIとの共進化はそこで崩壊します。未来は暗いものとなるでしょう。
だからこそ、私たちは「問う力」を磨き続けなければならないのです。
人間×AI共進化ストラテジスト/HRアーキテクト
藤本英樹(BBDF)

