「AIが進化して仕事が奪われるかも」という話題は、すでに多くの人が耳にしているでしょう。でも、多くの職場では、まるで何事もないかのように「従来通りの業務」が粛々と続いています。
私は最近、こうした光景を見るたびに、このような比えが頭をよぎります。
「過去最大級の台風が猛スピードで接近中!」と知らされているのに、「いや、これは日課だから…」と、いつものように浜辺へ散歩に出かける。
…まさに、そんな感じではないでしょうか?
変化の規模を見誤ってはいけない
生成AI、そしてその先に控える汎用人工知能(AGI)は、単なるツールの進化ではありません。「知的労働」や「人間の価値」の定義そのものを揺るがす、大変動の始まりです。これはインターネットの普及やスマホの登場とも比べものにならないレベルの社会構造のリセットです。(関連BBブログ「GPTはGPTか?」)
例えば
- 知識を持っているだけの人間は、AIに完全に代替されます。
- ルーティンワークや分析業務の多くは、AIが瞬時に処理するようになります。
- 「人間らしさ」とは何か?という問いが、労働の現場に突き付けられます。
- そして今後、フィジカル(身体動作)能力を持つAI・ロボティクスの発達が進めば、いわゆる“ブルーワーク”の分野にも同じ流れが訪れます(「身体を使う仕事だから安泰」は、もはや幻想に)。
つまりこれは、「一部の業種の話」ではなく、社会全体にとっての“過去最大級の台風”が接近しているということなのです。
これは決して、「ノストラダムスの大予言」的な煽りでも、荒唐無稽な未来予測でもありません。すでにその“風”は吹き始めており、静かに、しかし確実に現実が書き換わりつつあるのです。
経路依存性の罠
それでも多くの日本企業では、「今までうまくいってきた」方法から脱却できずにいます。
- 定例会議を続ける
- 報告書をつくる
- 朝から晩までメールを捌く
- 担当者がいないと回らない属人的なオペレーションを放置
- どう考えても5年後には存在していない商材に、今も全力で販促費をつぎ込む
- 市場の変化を認識しつつも、「今期は前年踏襲」で動こうとする
- 「AI導入は様子見」だが、その“様子”を誰も見ていない
こうした「日々の業務」に忙殺され、変化への思考や行動を棚上げしているのです。
これこそが経路依存性(Path Dependency)と呼ばれる状態です。いったん確立されたやり方から抜け出すことが極端に難しくなる。そしてその背景には、多くの場合、自らの「過去の成功体験」が横たわっています。
「あの時も大降りの雨だったけど、この傘で大丈夫だったよ?」
「リーマンの時も、このやり方で乗り切れたから大丈夫」
「結局は“人”でしょ。AIって言っても限界あるし」
そんな“過去の正解”が、いまや未来の足かせになっているのです。
そしてこの“思考停止”こそが、AI時代における最大のリスクとなると、私は心から危惧しています。(※いざ風が吹き荒れ始めたときに、準備や改革を怠っていた人たちが、「なんでもっと早く教えてくれないんだ!」と怒り、政府に補助金をねだる構図が目に浮かびます…。それ、誰の責任ですか?)
「逃げる」のではなく「登る」
では、どうすればいいのか?
ポイントは、「恐れて逃げる」のではなく、高台に登ることです。すなわち、より高い視点から、自分たちの仕事や組織のあり方を根本から見直すこと。
- この仕事は何のために存在しているのか?
- 自分(あるいは組織)が提供している価値は、AIでは代替できないものか?
- 新しい技術を前提にすれば、もっと意味のある働き方ができるのではないか?
- 今のやり方は、果たして5年後も通用するものか?
- この商材は、AI時代にも持続的に価値を提供できるのか?
- 自分たちの“強み”とされてきたビジネスモデルは、本当に未来でも有効か?
こうした「問い」を、自らに・チームに・組織に投げかけていくことが、未来を切り拓く鍵になります。いえ、それでしか未来は切り拓けません。
必要なのは、現実と未来を直視する勇気。そして、過去の実績や功績を手放す勇気です。
いま、海辺から離れる決断を
変化はある日突然やってくるのではありません。すでに私たちの背後に立ち、肩に手をかけてきています。
それを無視し続けることは、「逃げ遅れ」を意味します。
「まだ間に合う」。でも、それは“行動する人”に限られた言葉です。
BBDF 藤本