未来は12ヶ月後にやってくる

Professional-grade AGIが突きつける、労働と社会の再設計

· Insights,Business

先週の松尾研の授業で、こんな話がありました。

「かつては業務が主で、ITは従だった。だが今は逆。上にあるITを見ながら人間が学び、そこで得た知見を業務変革に活かす方向へと変わってきている。」

つまり、テクノロジーとの関わり方が、根本から変わりつつあるのです。

マイクロソフトAIのムスタファ・スレイマン(Mustafa Suleyman)CEOによれば、この変化は「過去半年で起きたこと」だといいます。体感的にも、その言葉に違和感はありません。世界は、突如として凄まじいスピードで変化し始めています。

これをAGI(汎用人工知能)出現の萌芽と言わずして、何と言うべきでしょうか。

そんな折、スレイマン氏が提示したのが「Professional-grade AGI」という概念です。一言で言えば、「仕事で使えるAGI」。従来のAGIの定義が「人間と同等の汎用知能」という曖昧で哲学的なものであったのに対し、これはきわめて実務的かつ現実的な定義です。

従来のAGI観では、到達時期の予測も専門家によって千差万別で、議論は空中戦に終始していました。これでは政策立案やビジネス戦略に活かすことは困難です。開発企業としてのMicrosoftにとって、「到達目標の明示」は、資金調達や規制対応の観点からも不可欠だったのでしょう。

スレイマン氏が示した「Professional-grade AGI」の定義は、以下のような知的労働の大部分を代替可能なレベルで担えるAIです。

  • 法務文書の作成
  • プログラミング
  • 財務分析
  • マーケティング戦略の立案
  • 研究調査
  • 医療判断の支援
  • 経営資料の作成

つまり、「哲学的に人間と同等である必要はない。経済的価値を生み出せるなら、それでAGIと呼べる」という発想です。非常に現実的で、同時にシビアな視点だと言えるでしょう。

この定義によって、私たちの視界は一気にクリアになります。AGIの到達は、もはや“遠い未来”ではない。そう確信せざるを得ません。

2026年2月11日付のFinancial Timesのインタビューで、スレイマン氏は「Professional-grade AGI」の到達時期、すなわちホワイトカラー業務の大半がAIに代替される時期を、明言しています。(リンク:Financial Times Mustafa Suleyman plots AI ‘self-sufficiency’ as Microsoft loosens OpenAI ties ※有料記事

“弁護士や会計士、プロジェクトマネージャー、マーケティング担当者など、コンピューターに向かって座って行うホワイトカラー業務の大半は、今後12~18カ月以内にAIによって完全に自動化される。”

5年後でも、10年後でもありません。1年から1年半以内なのです。

信じがたいかもしれません。しかし、過去半年の変化を振り返れば、納得せざるを得ないのが現実です。

この事実を、今どれだけ真摯に受け止め、構造を変革できるか。国の将来も、企業の命運も、ほぼその一点にかかっていると言っても過言ではありません。

2年後の光景は、労働も、雇用も、生活も、これまで私たちが当たり前だと思ってきたものとは劇的に異なるでしょう。今、動かなければ手遅れです。逆に言えば、「失われた30年」を一気に取り戻すチャンスでもあります。

この変革の足を引っ張るとすれば、それは「経路依存性」に他なりません。かつての成功モデルに固執し、FAXやハンコ文化を手放せなかった組織が、コロナ禍でどれだけ苦しんだかを思い出してください。あるいは、蒸気機関車の時代に、馬車の改良に全力を注いでいた企業がどうなったかを想像してみてください。

過去の成功体験に縛られたままの国や企業が、2年後に目にする光景は、きっと想像を絶するほど厳しいものになるでしょう。

まずは、自分の仕事のどこがAIに代替されうるのか、冷静に棚卸ししてみること。この変化を恐れるのではなく、どう活かすかを考えること。それこそが、未来を選び取るための第一歩になるはずです。

人間×AI共進化ストラテジスト
/HRアーキテクト

藤本英樹(BBDF)