「頭がいい人」の条件は逆転する

これからの「賢い人」は、むしろゆっくり考える人だ

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東大・藤井総長の式辞から得た気づき

東京大学・藤井総長による卒業式や入学式でのスピーチは、毎回示唆に富み、聴く(あるいは読む)たびに心を揺さぶられます。(ブログ内参考リンク:努力とセンスで実現する「素晴らしい世界」

先週(4/11)、日本武道館で行われた東大の学部入学式では、「リテラシーの重要性」について語られていました(参考リンク:令和7年度東京大学学部入学式 総長式辞)。

その際に例示されたのが「マイノリティ・リテラシー」と「AIリテラシー」です。

マイノリティ・リテラシーとは?

日本では、義務教育課程を修了していない、あるいは形式的に卒業していても実質的な学習機会を奪われている人が、100万人以上いると言われています。藤井総長はこの現実を指摘しつつ、「誰もがいつかマイノリティになる可能性がある」ことを自覚し、既存の社会規範や通念を問い直す視点の重要性を強調していました。そのうえで、「Think Globally, Act Locally(世界的に考え、地域で行動する)」という姿勢の大切さが説かれていました。

AIリテラシーとは?

一方のAIリテラシーでは、単なるハルシネーションの問題にとどまらず、プライバシー保護、バイアスへの対処、ディープフェイクといった倫理的な課題にまで踏み込んで解説。AIを使いこなすには、「問いの質」を高め、創造的な地球市民として批判的思考を持つと同時に、他者への深い理解と配慮を忘れない姿勢が不可欠であると語られていました。

また、先月の卒業式告辞(参考リンク:令和6年度 東京大学卒業式 総長告辞)では、成功と失敗の関係にフォーカスし、「失敗を恐れず挑戦すること」の重要性が強調されていました。日本社会に根強く残る「失敗に対する不寛容」が、挑戦やイノベーションを阻害している現実への危機感。そして、シリコンバレーの事例を紹介しながら「挑戦を評価する文化」の必要性が説かれています。

AIは「失敗(エラー)を通じて学習する」存在です。人間が失敗に不寛容であり、時に攻撃的にすらなる社会では、イノベーションが生まれる土壌は育ちません。

失敗を受け入れ、改善し続けるスタンスをAIに学びつつ、人間として「批判的思考」と「他者への配慮」を両立させたい——そう強く感じさせられる式辞でした。

そして、これらを踏まえて、最近、あらためて考えていることがあります。

それは「これからの人間の“頭の良さ”の定義は、大きく変わるだろう」ということです。

AI時代に再定義される「頭の良さ」

従来の「頭の良さ」とは?

これまで、いわゆる「知性」は次の3つで評価されることが多かったように思います。

  • 頭の回転の速さ(情報処理速度)
  • 記憶力
  • 知識量

しかし、これらはいずれも、AIの得意領域そのものです。AIは人間をはるかに凌駕する処理速度と記憶容量を備え、膨大な知識を瞬時に検索・整理できます。つまり、人間が「情報処理能力」でAIに勝負を挑む時代は、終わりを迎えつつあるのです。

これから求められる「頭の良さ」

では、これからの知性とは何か。それは、以下のような領域にシフトしていくはずです。

  • 批判的思考・検証力
    AIが出す答えを鵜呑みにせず、文脈や背景を考慮し、自ら正誤を判断する力
  • 創造力・独自性
    AIが苦手とする「ゼロからの発想」や直感的なひらめき
  • 深い思考・哲学的探究
    速さではなく、時間をかけて問いを深め、意味や本質を追究する力
  • 対話力・共感力
    相手の気持ちを汲み取り、文化や感情に寄り添って対話する力

知性の「質」の変化にどう備えるか

今後、人間の知性の評価軸は、「速さ」ではなく「深さ」へとシフトしていくはずです。

「いかに早く答えを出すか」から「いかに良い問いを立てられるか」へ
「どれだけ知っているか」から「何を考え抜いたか」へ
「どれだけ正確か」から「どれだけ試行錯誤したか」へ

AIの台頭によって、人間が「人間らしさ」を磨く時代が来ています。つまり、独自性・創造性・批判性こそが、これからの「頭の良さ」になるのです。

教育を「問いの創造」にアップデートする

では、こうした知性を育むにはどのような教育が必要でしょうか。いくつかのアプローチを挙げてみます。


1. 批判的思考の強

  • AIが出した答えを検証する演習
  • ニュースや論文のバイアスを探す授業

これらにより、受け取った情報を鵜呑みにせず、批判的に検討する能力が養われるはずです。AIを使いこなすうえで、盲目的に信じるリスクを避ける習慣がつくでしょう。


2. 探究型学習の導

  • 「なぜ?」を深掘りする課題設定
  • 「もし○○だったら?」という仮説思考

例えば、歴史を学ぶ際に事実を覚えるだけではなく、「もし異なる選択肢があったとしたらどうなっていたか?」という仮説を立てる練習をするのが効果的でしょう。生徒は主体的に問題を定義し、深く考える習慣を持つようになるはずです。


3. 創造的問題解決ワー

  • ゼロベース発想のアイデア出し
  • 「常識を疑う」ディスカッション

例えば「不便なものを便利にするアイデア出し」を行い、自由に発想するワークショップを通じて、AIが生成できない「新しい考え方」を生み出せる力がつくはずです。また、失敗を前提とした実験的な思考も身につくでしょう。


4. 哲学的思考の習

  • ソクラテス式問答(質問を繰り返す)
  • 「人間とは?」「AIとは?」を問い続ける

「問いの質を深める」対話型授業があれば、表面的な結論にとらわれず、「問いを問い続ける」力が養われるでしょう。そして、社会や技術の変化に適応できる柔軟な思考が形成されていくはずです。

AI時代の知性は「問い」で磨かれる

AIが情報処理を担う世界で、人間に求められるのは「問いを立て、考え抜き、他者と対話しながら新しい意味を生み出す力」です。

これこそが、AI時代の「頭の良さ」。

…などと偉そうに書きながら、「学生のうちにもっと勉強しておけばよかったなあ」と反省する今日この頃です。

BBDF 藤本