今日、こんな記事が話題になっていました(Yahoo!ニュース)。
コメント欄を見る限り、多くの人がこの記事に共感しているようです。しかし、私はこの記事を読んで、別の危機感を覚えました。
「その価値観こそが、日本企業の停滞(参考リンク)と中間管理職の疲弊を加速させているのではないか?」という不安です。
「相談は上司に」が危ない理由
AIの進化によって、若手がまずAIに相談する──これは自然な行動です。むしろ問題なのは、上司側がその事実に対して「不機嫌」や「奢り」で反応してしまうことではないでしょうか。
「AIより俺に聞け」
「AIなんかより俺は現場を知っている」
…本当にそうでしょうか?
特に現代は、中間管理職の負担が過去最大級に高まっています。「人手不足」「働き方改革」「マネジメント負荷」「心理的安全性の担保」…。
すべての悩み相談・課題整理・情報提供を上司ひとりで抱え込むこと自体が、そもそも限界を迎えつつあるのです。
このような属人的な経営モデルは、既にリスクです。個人の経験や感覚に頼り切るのではなく、AIという道具を「当たり前に使いこなす」時代に入っていることを自覚するべきでしょう。
「相談」のフェーズ分け
「AIか?人間か?」ではなく、「何を誰に相談するか」をフェーズで考える。これが最も合理的ではないでしょうか。
○フェーズ1:準備・インプット
- 情報収集
- データ分析
- 過去事例の抽出
- ラテラルシンキング(水平思考)による提案アイデア
- ロールプレイやシミュレーション
これらはAIが圧倒的に得意な分野です。上司が「時間がない」「そんなの自分で考えろ」という領域を、AIが無限に付き合ってくれて、圧倒的なスピードと量で答えを返してくれます。むしろ、上司がすべてを把握するより、AIを使い倒す方が圧倒的に効率的と言えるでしょう。
○フェーズ2:現場対応・アドリブ
- 顧客の反応を読む
- 雰囲気に応じた間の取り方
- 声色・表情への細やかな反応
- 臨機応変な対応
ここは確かに人間の経験値がものをいう領域でしょう。ただこの経験値は、相談相手がAIであれ人間の上司であれ、一朝一夕には身につかないものです。また、最新のAIはZoomのAI CompanionやSalesforceのEinstein GPTのように、表情・声色・トーン分析でサポートを始めていることを認識する必要があるでしょう。
○フェーズ3:振り返り・意味づけ
- なぜうまくいったか
- どこに課題があったか
- 次に生かすポイントは何か
- 新たな問いを立てる
こここそが人間上司の「存在価値」でしょう。AIは事実の振り返りは得意でも、「なぜそうだったのか?」という「文脈化」「意味づけ」「価値観」「ストーリー化」は現状人間の領域です。これが原体験を知恵に変える瞬間なのではないでしょうか(ただし、「推論力は経験学習でしか磨けない」という点については、既にAIは大量のデータを学習し、演繹法・帰納法・アブダクションを駆使して高度な推論を行うことができる、という点を忘れてはなりません)。
これからの上司の役割は「メタ認知」のプロ
これからの上司に求められるのは、昔のような「なんでも知っている人」ではありません。
- 考え方の癖を整える
- 視野の狭さに気づかせる
- 問いの質を高める
- アイデアの壁打ち相手になる
こうしたAIが苦手な「人間らしい問いかけ」が、これからのマネジメントの本質であり、「メタ認知支援のプロ」であることが、AI時代のマネジメントの必須スキルであると考えます。
若手のAI活用を否定するのは、自ら衰退を選ぶ行為
記事に登場した新入社員は、むしろ自分なりに試行錯誤し、AIを相棒として挑戦した人材かもしれません。その挑戦を否定する文化こそが、日本の生産性を落とし、若者の挑戦意欲を削ぎ、中間管理職の負担を爆増させている元凶であるように考えるのです。
失敗したのなら、その経験こそ宝。咎めるのではなく、そこから学びを深める機会にするべきではないでしょうか。上司が「へそを曲げる」のではなく、「AIとどう共創するか」を問い直す時代が来ています。
人間とAIの共創を前提としないマネジメントは、もはや時代遅れと言ってもいいでしょう。
未来の相談は、「AI×人間」でつくるもの
AIが得意なこと。人間が得意なこと。
この役割分担を最適化することこそ、上司の最大の役割になりつつあります。
「AIは“考える”相棒」
「上司は“問いかける”相棒」
この両輪で動かしていけるかどうかこそが、これからの強いチームの条件となるでしょう。
これからの未来を創るのは、決して“知っている人”ではなく、“問いを立てられる人”と“それに寄り添える人”です。
AIか?人間か?そんな二者択一の時代は、もう終わりにしましょう。
BBDF 藤本