努力とセンスで実現する「素晴らしい世界」

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Rolling Stonesサイケデリック期の名盤、「Their Satanic Majesties Request」(1967年)。6曲目に収録されているのが「She's A Rainbow」です(ストリングスアレンジをLed ZeppelinのJohn Paul Jones氏が手掛けていたりします)。

1999年のアップル(iMac)のCM(YouTubeリンク )や、2015年のベネッセ(進研ゼミ)のCMでも使われた曲なので、ご存じの方も多いでしょう。

1999年のアップル、2015年のベネッセ...いずれもトップにいたのは原田泳幸氏ですね。ロックに対する造詣の深さでも知られている方ですから、相当Stonesがお好きなのだろうと推察しています。

この曲、どうもマクドナルドのCMでも使われていたような気がするのですが(友人も同様の認識でした)、おそらくこれは、原田氏つながりによる「マンデラ・エフェクト」なのでしょう。(*1)

印象深いCMで使われた曲といえば、IBMのThinkPadも外せません。

こちらで使われているのは、私が最も尊敬するアーティストであり、Steely Danの頭脳、Donald Fagen(ドナルド・フェイゲン)氏のソロ代表曲「I.G.Y.」。「史上最も音の良いレコード」として知られるアルバム『The Nightfly』(1982年)のオープニング曲です。

Fagen氏の魅力は、音への徹底したこだわりに加え、そのシニカル且つ哲学的な歌詞にあります。「I.G.Y.」とは国際地球観測年(International Geophysical Year)の略ですが、本来ポジティブな意図で開発された科学技術がネガティブな方向に利用されている現状を背景に、この曲で彼は皮肉を込めて「What a beautiful world this will be(なんて美しい世界になるのだろう)」「What a glorious time to be free(自由になれるなんて素晴らしい時代だ) 」と歌っています。

この曲(歌詞)について、東大の藤井輝夫総長が、令和4年度の学位記授与式における告辞で取り上げていたことを知りました。

藤井総長は、この告辞の中で次の3つの「センス」を磨くよう卒業生に伝えています(超要約・意訳)。

1.技術を選択するセンス
・課題の全体像をつかむ努力に加え、適切な情報を見極めるセンスが重要。
・現実から目を背けずに向き合い続けることで、そのセンスを磨くこと。

2.人々の声に耳を傾けるセンス
・データの背後にある人々の声や痛み、苦しみに気づき、共感することが重要。
・視覚的な情報や数値だけでは見えない「人間らしさ」に思いを遣るセンスを大切に。

3.未来を見据える力
・センシングしたビッグデータは過去や現在の状況に過ぎない。振り回されないこと。
・未来をどう創っていくかが最も重要。
・理想を持ち、自分らしい判断力、粘り強い思考力、豊かな発想力を磨くこと。
・これからの地球と社会の未来を自分の手で創造していく責任感と覚悟を持つこと。

これらの「センス」を磨くことで、「I.G.Y.」(What a beautiful world this will be, What a glorious time to be freeというフレーズ)を皆で "素直に" (皮肉としてではなく)歌うことができる日を自ら実現することの期待を述べていらっしゃるのです。

心に響く、素晴らしい告辞です。そしてこれはなにも、東大の卒業生に限って求められることではなく、今を生きる我々一人ひとりの努力とセンスが重要になってくるものと考えます。

まあ、実際にどんなに素晴らしい世の中が来たとて、Donald Fagen氏のシニカルさがなくなることはない気がしますけど(笑)

次回、その辺りについて書いてみたいと思います。

BBDF 藤本

*1:事実とは異なる記憶を不特定多数の人が共有している現象のこと。実際は存命中のネルソン・マンデラ氏が、1980年代に獄中死していたという誤った記憶を多くの人が共有した1990年代の現象に由来しています。