「リスカレント」時代にキャリアコンサルタントが担う役割

“過去”ではなく“未来”で人をマッチングする時代へ

· Insights,Business

労働人口減少とAI時代がもたらす「仕事の再定義」

日本の労働人口は2040年までに1000万人以上減少すると予測されています。同時に、AIが代替可能な業務領域は急速に拡大しており、特に事務職やデータ処理等の定型業務は、2020年代後半から急減する見込みです。

このダブルパンチにより、「なくなる仕事」は後を絶たなくなります。そして同時に「変わる仕事」も増えています。営業職は単なる取引から「顧客体験の設計者」へ、製造職は単なる作業者から「生産プロセスの最適化パートナー」へと、その役割が再定義されつつあります。

こうした環境で求められるのが、リスキリング(新たなスキル習得)とリカレント教育(学び直し)を掛け合わせた新概念、「リスカレント」です。(ブログ内参照リンク:「リスカレント」という新概念が切り拓く、学びと成長の未来

「リスカレント」時代のキャリアマッチングとは

従来の人材紹介は、求職者の過去の経歴やスキルをもとに求人票と照合する“機械的なマッチング”が中心でした。しかし、この方法は最早限界を迎えつつあり、近い将来AIによりほぼ完全に代替可能となるでしょう。

これから求められるのは、「未来志向のマッチング」です。

求職者の「過去」ではなく、その人の未来への志向や潜在的能力を起点に、本人が想像していなかったキャリアパスを提示することです。まるで化学反応のように、新しい仕事と人を組み合わせる発想です。例えば、以下のようなケース。

① コールセンターオペレーター → 在宅訪問型カスタマーケア(高齢者向け)
・高齢者やデジタル弱者への訪問サポートは今後ニーズが拡大。
・AIが代替しづらい「対面での安心感」や生活支援が求められる。

② アパレル販売員 → Webマーケター
・接客で培った顧客理解力と商品訴求力をデジタル領域へ転用。
・現場で得た“売れる文脈”をオンラインで再現できる強み。

③ 元プロスポーツ選手 → 企業研修トレーナー
・チームワークや目標達成プロセスをビジネス研修に活用。
・ストーリーテリングで組織の士気を高める効果も期待。

④ 銀行窓口担当 → 福祉施設の事務長
・正確性・法令遵守意識・顧客対応力を施設運営や行政対応に応用。
・福祉現場の信頼性を支える中核人材となる。

⑤ 旅行添乗員 → 外資系企業のカスタマーサクセス担当
・多文化対応力とトラブル処理力をグローバル顧客支援に転換。
・リモート環境でも強固な関係性を築ける。

⑥ 映像編集者 → eラーニング教材クリエイター
・映像編集と物語構成力を教育コンテンツ制作に活用。
・拡大するオンライン教育市場に適合。

⑦ 新聞配達員 → 地域見守りパートナー
・新聞配達ルートの知識を活かし、高齢者の安否確認や生活支援を担う。
・地域社会で“人の目”として機能する役割は今後も需要増。

⑧ 一般事務職 → 医療・介護分野の記録管理者
・事務処理の正確性や書類整理力を、医療・介護現場の記録管理に転用。
・法的要件やセキュリティ意識が高い人材は貴重。

⑨ 飲食店ホールスタッフ → 食品衛生監査員
・飲食業で培った衛生管理意識と現場対応力を検査業務に活用。
・食品安全規格の厳格化に伴い需要が安定的に続く。

⑩ 工場ライン作業員 → ロボットメンテナンス技術者
・製造工程の理解をロボットや自動化設備の保守・点検に転用。
・自動化の進展とともに保守需要は確実に拡大。

これらは単なる職種転換ではなく「本人が自分事として受け止められる未来シナリオ」を描くことが前提となります。

キャリアコンサルタントに必要となる新能力

未来志向マッチングの時代、キャリアコンサルタントは次の能力を備える必要があります。

1.深層適性を見抜く力

表面的な経歴ではなく、会話や態度から「真の適性」を読み取る感性。AIによる適性診断や潜在スキル分析を活用しつつ、そのデータを人間ならではの文脈理解で解釈するハイブリッド型が理想。

2.業界横断知識

異業種のリアルな現場情報や成長予測を把握し、求職者に新しい選択肢を提示できる幅広さ。

3.ナラティブ構築力

提案する未来像を単なる転職先リストではなく、本人の価値観や人生背景に沿った“物語”として提示し、モチベーションを引き出す力。最も重要且つ難易度の高い要素。

「本人が想像していない未来」を提示するための仕組み

■“転職距離”の概念

経歴と新職種の距離を「近距離」「中距離」「長距離」で分類し、長距離転換には研修や試行期間などの橋渡し施策を設計する。

■成功事例の分析

過去の転職成功例を分解し、「どのスキルが新しい職場で活きたのか」「なぜ本人が納得できたのか」を体系化する。

社会的インパクト

未来志向マッチングは、単に一人のキャリアを変えるだけではまく、慢性的な人手不足業界への人材供給や、産業構造全体の持続性向上にも寄与します。

更に、職業寿命が短くなる中で、一生に3回以上の大幅キャリア転換が当たり前になる社会に備えるためのモデルケースにもなるでしょう。

求職者・企業双方のアクション

○求職者向け:「未来志向キャリア」を考える3つの質問

  1. 今の仕事で最もワクワクする瞬間はいつか?
  2. 過去5年で新しく身につけたスキルは何か?
  3. 社会課題の中で、自分が解決に関わりたいものは何か?

→これらの回答から、その人の価値観や志向を見抜き、将来性のある職種との適合性をイメージ・見極める。

○企業向け:異業種採用で得られる価値

  • 新しい発想、業務プロセスの刷新、従来顧客層の拡大など“外部の血”がもたらす効果を数値化し共有する。

AIと人口減少が進む時代、キャリアマッチングは「過去の経歴」から「未来の志向」へと軸足を移す必要があります。

キャリアコンサルタントは、求職者に真の意味で寄り添い、共に未来を描き、その人の可能性を最大化する「未来コンサルタント」へと進化していくでしょう。

この変化の中心にあるのが、「リスキリング」と「リカレント教育」を融合させたリスカレントの発想なのです。

BBDF 藤本