「ビジョン」「ミッション」「パーパス」…日本企業はこれらの言葉が本当に大好きです。
- 会議室の壁には立派な額縁入りの理念…
- イントラには“○○ビジョン2030”…
- 朝礼で唱和している会社さえある…
しかし、それが日々の行動と1ミリも結びついていません。
そんな「宗教活動」みたいなパーパス掲示が、我が国の企業にはあまりにも多い。
実際、ビジョンと行動の間には深い溝があります。ビジョンでは立派なことを語っているのに、人事制度はいまだに「年齢・慣習・前例」で決めている。
その矛盾が放置された結果が、我が国の「失われた30年」です。
■日本ガイシの“異例”の施策
昨日(明け一昨日)、人材採用・育成、組織開発のナレッジコミュニティ「日本の人事部」に、このような記事が掲載されていました。「シニア活躍の課題が全社改革のきっかけに――日本ガイシが策定した、「過去の貢献」から「未来の挑戦」を評価する新人事制度」(リンク:日本の人事部)
日本ガイシにおける人事制度改革。個人的に最も強烈だったのは次の一文です。
ビジョン実現に必要な行動がとれているかを評価する「行動評価」を導入した。
これは本当に「革命」と言うべきものです(日本では)。
多くの日本企業は、こうです。
- ビジョンは掲げる
- でも、評価は従来のまま
- 結果、行動は変わらない
- ビジョンは“絵に描いた餅”
つまり、言葉と行動が分離した組織が量産されているのです。ところが日本ガイシは違いました。
成果が良くても行動評価が低いと年収が下がる
「成果だけ出せば英雄」という日本企業の“サムライ個人主義”を、制度から否定したのです。大企業でここまで踏み込む勇気。
形式的な「ジョブ型導入」とは次元が違う
日本企業がジョブ型に失敗する理由は決まっています。
- 人事制度に落としこまない(落とし込む能力がない)
- 役割は曖昧なまま
- 結果、どこからどこまでが仕事かわからなくなる
- 当然、部門横断の協働は考慮されていない
- 最後は「やっぱり日本にはジョブ型は合わない」
そして結局「年功マネジメント」に回帰したりします。なんなん。
しかし日本ガイシはそのリスクを理解し、行動評価という“日本型の良さ(協働・越境)”を制度で守る防御壁を作りました。
「ジョブディスクリプションで職務明確化」
×「行動評価で協働文化を維持」
=文化を壊さず制度を近代化
この「二刀流」の思想、いますぐ他社も見習うべきでしょう。
最大の驚きは、改革が「シニア活躍」から始まった点
もう一つ見逃せないのは、今回の改革が“シニア活躍プロジェクト”から始まったことです。
普通、日本企業のシニア施策は、
- ポストオフ
- 増える雑務
- やる気をそぐ処遇
という、3つの構造的不遇ハーモニーが当たり前です。しかし日本ガイシは、その“末端の歪み”を深掘りした結果、
これはシニアだけの問題ではない。
むしろ全階層の制度が歪んでいる。
と気づき、全社制度改革へと踏み出したのです。
これは極めて稀なプロセスと言えます。日本企業にありがちな「対症療法」「局所改善」から抜け出した、稀有な例です。
それでも残る課題──だからこそ価値がある
記事の通り、現場にはまだ戸惑いが多いようです。特にシニア層は「これまでの積み上げは?」と不安になるでしょう。
しかし、こここそが重要なのです。
組織文化は“制度 → 行動 → 習慣 → 文化”の順でしか変わりません。つまり、「制度を変えた瞬間がもっとも痛みが大きい」。これは避けられないのです。
痛みを避け続けた結果、日本企業は30年も停滞してしまったのです。それが厳しい現実。そろそろ直視しましょう。
日本ガイシは、痛みを引き受け、変革を選びました。これは間違いなく評価されるべき一歩です。
「ご立派なビジョン掲示の時代」は終わった
そろそろ日本企業は気づくべきです。
ビジョンを語ることも、
スローガンを掲げることも、
研修で“理念”を唱えることも、
文化を変える手段にはならない
ということに。文化を変える力があるのは、ただ一つ。
「評価制度」。
日本ガイシが示したのは、「ビジョンと評価をつなげる」という、当たり前で、しかし最も難しい一歩なのです。
ビジョンを掲げて満足する企業が多い中で、ちゃんと“行動”まで踏み込んだ日本ガイシ。日本の人的資本経営の中でも数少ない“本気の会社”だと感じました。
誠に僭越ながら。
人間×AI共進化ストラテジスト/HRアーキテクト
藤本英樹(BBDF)

