「誰も責任を取らない組織」は、なぜ例外なく滅ぶのか

歴史に学ぶ:「責任構造」のデザインが組織の命運を分ける理由

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職場や組織において、こんな場面に出くわしたことはないでしょうか。

「その件は私の担当じゃないんで」
「上の指示に従っただけです」
「みんなで決めたので、誰か一人の責任ではありません」

これらの言葉の裏には、「誰も責任を取らない構造的な仕組み」が潜んでいます。私はこれを、「構造的無責任」と呼んでいます。

では、こうした責任の所在が曖昧な“クソ組織”が、果たして繁栄した事例はあるのでしょうか?……結論から言えば、そんな組織は“必ず”滅びています。

一方、責任の取り方が制度としてきちんと設計されていた組織・仕組みは、長期的に繁栄を遂げています(当然のことながら)。

この記事では、歴史上の事例をもとに「無責任組織が衰退したケース」と「責任設計によって繁栄したケース」を比較しながら、今の私たちが得るべき教訓を整理したいと考えます。

「責任を取らない組織」が辿った5つの末路

1.官僚主義と情報隠蔽が招いた国家崩壊(ソビエト連邦)

共産党官僚が絶対権力を握り、経済や政治の失敗があっても誰も責任を取らない体制でした。官僚は「上の指示に従っただけ」と言い訳できる構造がありました。結果、情報の隠ぺいや非効率、汚職が蔓延して行き、チェルノブイリ原発事故や経済崩壊を経て、1991年にソ連は消滅しました。

【教訓】明確な責任者不在では、改革も事故対応も進まず、信頼と制度は崩壊します。

2.暴走する中堅層と責任の空白(旧・大日本帝国陸軍)

統帥権の独立により、政治と軍の責任が分断。現場では青年将校が独断専行し、暴走は止められませんでした。満州事変・日中戦争・太平洋戦争と泥沼化して行き、戦争責任が曖昧なまま終戦を迎えました。

【教訓】上下の意思疎通や責任系統の不在・曖昧さが、日本を敗戦に導きました。

3.粉飾を見逃す“共犯的無責任”(エンロン社)

経営陣も監査法人も「問題を知りながら黙認」を続けました。内部告発も封殺です。数十億ドル規模の会計不正が発覚し、米史上最大級の企業破綻となりました。

【教訓】“知っていて黙る”のも、同じく立派な「無責任」です。

4.専門家や従業員の警告を潰す構造(NASA チャレンジャー号事故)

技術者が「打ち上げは危険」と警告するも、経営陣は政治的・予算的プレッシャーからスケジュールを優先させました。ロケットは爆発し、7名が犠牲になりました。これにより宇宙開発は10年の「構造的ロス」に突入しました。

【教訓】「誰も止められなかった」では済まされません。警告を封殺する「責任の空白」が人命を奪います。

5.全員が他人任せ(米サブプライムローン崩壊)

貸す側も、格付け会社も、投資家も「自分の責任じゃない」と言い張った構造的バブルです。その崩壊がリーマン・ショックを引き起こし、世界的な経済低迷につながりました。

【教訓】リスクの無責任な分散が、責任の所在の曖昧化につながります。

一方、責任設計が繁栄を生んだ組織の例

1.責任者を1人に絞る(Amazon)

各プロジェクトに“シングルスレッド・リーダー”を配置、成果も失敗も明確に1人が担う制度にしました。これにより意思決定は速くなり、言い訳がきかない構造となり、その結果次々にイノベーションが生まれています。

【教訓】責任の一点化がスピードと質を高めます。

2.「止める権限」を現場に持たせる(トヨタ)

現場作業員が品質異常に気づけば、即ラインを止めることのできる「アンドン」制度があります。問題が起きた瞬間に「誰がどう動くか」が明確で、現場が責任を持つからこそ、世界トップクラスの品質と生産効率を実現しています。

【教訓】現場への権限委譲と責任明確化が、組織全体のレジリエンスを高めます。

3.説明責任と透明性の徹底(スウェーデンの官僚制度)

官僚は「なぜその判断をしたか」を必ず記録、公開されます。政治家も官僚も逃げられない構造なのです。そのため、腐敗は極めて少なく、政策の信頼性は高く、社会福祉制度は機能しています。国際的にも高評価のガバナンスが確立しています。

【教訓】責任を曖昧にしない「制度化された透明性」が、持続的繁栄の基盤となります。

4.「記録せよ、さもなくば繰り返す」(ナイチンゲールの野戦病院改革)

兵士の死亡原因を分類・記録し、改善策を具体化しました。誰がどの処置を行ったかも徹底的に明記し、上官や医師にも説明責任を求めました。結果、死亡率は劇的に改善し、近代看護制度の礎を築きました。

【教訓】成功も失敗も記録・検証し、責任の所在を可視化することが、再発防止と制度改善を生みます。

5.製品ごとに“絶対責任者”を設置(Apple)

iPod、iPhone、Macなど、すべての製品に明確な責任者が存在しています。ジョブズ自身も「最終責任者」として逃げませんでした。これにより世界で最も価値ある企業へと成長を遂げました。

【教訓】「これは誰の責任か」が明確であることが、創造性と品質の両立を可能にします。

繁栄する組織は「責任のデザイン」に手を抜かない

責任の所在が曖昧なまま放置される組織は、確実に腐敗するのです。そしてその腐敗は、ある日突然、取り返しのつかないかたちで現れます。

一方で、責任の在処を構造として明示し、かつその責任にふさわしい権限と情報をセットで渡している組織は、失敗から学び、成長し続けることができます。

これらは、歴史がすべて証明済みなのです。

組織の「責任設計」3つの鍵

①責任の“一点化”

複数人であっても、「最終責任者」を明示しなければなりません。「言い訳のできない仕組み」が必須です。

②記録と透明性の制度化

後からでも検証できるようにしなければなりません。失敗の検証と学習が構造化されていることも重要です。

③権限と責任の一致

責任者には、それを果たすだけの裁量を与えなければなりません。指示を待たずとも動ける構造が必要です。

今、自分の属する組織(国家も含む)は、「責任の所在が設計されている組織」でしょうか?それとも「責任が曖昧なまま放置されている組織」でしょうか?

無責任体質が蔓延する「クソ組織」に足を取られてはいないでしょうか?

歴史は、何度でも私たちに問いかけています。「その失敗、本当に“誰のせいでもなかった”のか?」と。

世の中が大きくピボットしようとしているこの瞬間に、問いとして残しておきます。

BBDF 藤本