昨晩、石破茂自民党総裁が辞意を表明されました。まずは、重責を担われたことに、深く敬意を払いたく思います。
総括委員会による報告
9/2の両院議員総会では、7/20に施行された第27回参院選を総括する文書(参考リンク:「国民政党としての再生に向けて」)が報告されました。敗因として挙げられたのは以下の通りです。
- 内閣支持率の低迷
- 自民支持層の縮小と固めきれなさ
- 無党派層への訴求力不足
- 若年層・現役世代・一部保守層の流出
- 物価高対策が「国民に刺さらず」
- 政治資金問題による信頼喪失
- SNSなどデジタル発信力の弱さ
再生策としては、
- 「解党的出直し」
- 地方組織との連携強化
- 国民の声を聞く姿勢の徹底
- 保守政治の伝統を再評価
とされています。
しかし、正直なところ、これでは「1カ月以上もかけた割には内容の具体性・実効性に乏しい印象は否めない」と言わざるを得ません。そもそも、この1カ月の間に、どのような手法でどのようなデータを集めたのかが、わかりません。
横浜商科大学田中教授の調査レポート
参院選における自民大敗と参政党の躍進の分析は、7/26に早くも発表された横浜商科大学商学部田中辰雄教授が比例票の流れを統計で追ったレポートが全てです(参考リンク:田中先生のnote「参政党の支持者はどこから来たか?」)。
この調査から見えてくるポイントは、以下の通りです。
- 参政党が躍進。支持者の中心は20〜40代の比較的若年層。
- 支持者の属性(性別・学歴・所得など)に偏りはなく、政治的傾向が強く保守的であることが最大の特徴。
- 自民党の支持者の保守度は平均値0.18、参政党は0.49と大きく上回る。
- 2021年の自民支持者の保守度は0.37だったため、自民党の保守度が年々低下している。
- 参政党支持者の多くは、以前は自民党に投票していた強い保守層(岩盤保守)。
また、同教授は、昨年10月27日の衆院選に関しても、28日には独自調査レポート(アンケート調査で有権者心理を掘り下げるもの)を発表しています(参考リンク:「2024年衆議院選挙、自民党敗北の一因――強い保守層の離脱」)。
こちらの主なポイントは、以下の通り。
- 自民党は比例区で得票率を6.4%減少させ、過半数割れ。
- 敗因は以下の3つの要因が複合的に作用
1.政策の失敗(物価上昇・賃金停滞)
2.政治資金不記載問題への批判
3.高市氏が総裁選で敗れたことへの失望 - アンケート調査では、「高市氏が総理なら自民に投票する」と答えた人が多く、高市効果は得票率+5.3%と推定。
- 離脱した自民支持者は、保守的思想が強い層であることが判明。
特に重要な示唆を含むのは、以下の3点です。
- 「高市氏が総理なら自民に投票する」という層が一定数いて、総裁の顔が票に直結することが明らかになった点。
- 石破政権への評価が、リベラル層には好意的、保守層には否定的というくっきりした分布になっていた点。
- 「辞任すべき」と考える人が、保守的政策に強く賛同しているという、政策と感情の連動性。
そして、24年衆院選と25年参院選を比較し、変化を考察すると、以下のようになります。
✓自民党の得票率
・24年:減少(6.4%)
・25年:若年層では第一党ですらない
→支持基盤の弱体化が進行中
✓保守層の動き
・24年:高市氏敗北で離脱
・24年:参政党に流入
→岩盤保守が自民から参政に移動し定着
✓保守度(自民)
・24年:平均0.37 → 0.18
・25年:さらに低下
→自民党の保守色が薄れている
✓保守度(参政党)
・24年:不明
・25年:平均0.49
→参政党が保守層の受け皿に
✓若年層の支持
・24年:分析なし
・25年:参政党・国民民主が強い
→自民党は若年層で劣勢に
この2つの選挙を通じて見えてくるのは、自民党の保守的支持層が確実に離れつつあるということです。2024年には「高市氏が総理なら戻るかも」という期待がありましたが、2025年にはその層が参政党に定着し始めているのです。しかも、若年層の支持も奪われているとなると、これこそが自民党にとっては大きな敗因であり、同時に今後の改善ポイントということになるはずです。
データから見る真の敗因
石破氏は、安倍派の不記載問題が選挙敗因の主因だと見ているようですが、田中先生の分析や選挙結果の構造を見ると、それだけでは説明しきれないのが実情です。
石破氏の見解(報道より)
- 石破政権の支持率が下がった要因として、政治資金問題の影響をいまだに強調する発言が複数報道されている。
- 参院選の総括に『不記載問題が敗因の一つ』と明記した。
これは、田中先生の分析(数字だけではなく、人の気持ちの動きを丁寧に拾っているのが大きな特徴です)と、明確にズレています。
2024年衆院選
- 政治資金問題は敗因の一因として挙げられているが、高市氏敗北による保守層の離脱がより大きな要因とされている。
- 「高市効果」は得票率+5.3%と推定されており、保守層の感情的な離反が選挙結果に直結していた。
2025年参院選
- 不記載問題には言及なし。
- 自民党の保守度が低下し、保守層が参政党に流れた構造的変化が中心テーマ。
- 若年層の支持も失っており、理念的な軸の弱体化が問題視されている。
石破氏が政治資金問題を敗因の中心に据えているのは、党内の統治責任や倫理的な観点からは妥当かもしれませんが、選挙結果の分析から見えるのはむしろ、
- 保守層の理念的な離反
- 若年層の支持喪失
- 新興政党への感情的共鳴
つまり、敗因は「不祥事」よりも「信念・理念の空洞化」なのです。
総裁選の焦点は「理念か人気か」
これまでの総裁選は、ある意味「人気投票」的な側面が強く、メディア露出やイメージ戦略が重視されてきました。しかし今回の選挙結果(衆院・参院ともに敗北)を踏まえると、以下のような構造的な危機が見えてきます。
- 保守層の離反が定着化:参政党への流出は一過性ではなく、理念的な移動。
- 若年層の支持喪失:国民民主や新興勢力に流れており、将来的な基盤が揺らいでいる。
- 自民党の保守度低下:田中先生の分析では、保守度が年々下がっている。
この状況で、もしまた「人気先行型」の総裁が選ばるようなことになれば、党の理念的な軸がさらに弱まり、岩盤支持層の回復は困難になるでしょう。
つまり、再び理念なき(保守的ではない)総裁が今度の総裁選で生まれた場合、それが自民党の「最後の最後」となる可能性が大きい。
現在総裁選に名前が挙がっている議員を見ると、保守層の信頼を回復できる可能性があるのは高市氏と小林氏でしょう。田中先生の分析でも、高市氏が総理なら自民に投票するという層が明確に存在しており、理念的な再構築には不可欠な存在といえるかもしれません。
今回の総裁選だけは「人気」ではなく「意味」を選ぶ選挙です。ここを間違えてはなりません。自民党が保守政党としてのアイデンティティを再構築できるかどうか。それのみが問われている局面です。
理念に立ち返るなら、まだ間に合うかもしれません。再起は、今この瞬間の覚悟にかかっています。
BBDF 藤本