幼少期より、プロレスを観戦しながら、あれこれと考えを巡らせることが楽しみでした。プロレスを通じて学んできた数々の教訓は、自分の中で大きな糧となり、人生に確かな指針を与えてくれています。
そして、今のこの時代において、プロレスこそが、社会に求められていると感じてやみません。
プロレス「6つの教訓」とその実践
プロレスから得られる教訓には、例えば以下のようなものがあります。
【教訓①】相手の「技を受ける」ことの重要性
プロレスでは、互いに技を掛け合いながらドラマを作り上げていきます。防御をせず、あえて「受ける」ことで、相手の力量を正しく計ることができ、それを自分の力に変えることもできます。これは、アントニオ猪木さんの「風車の理論」(*1)にも通じる哲学です。
→実践:どんな相手でも、まずはその意見を否定せず聞くことを心がけています。
【教訓②】逆境に立ち向かう「勇気」
プロレスの最大の醍醐味は、逆境に立ち向かう勇気です。例えば、力道山(*2)とシャープ兄弟(*3)の抗争では、「憎きアメリカ人」(ヒール)を打ち負かす力道山(ヒーロー)の姿が、戦後の日本人に大きな勇気を与えた(*4)と言えるでしょう。
→実践:正しいと思う道を、困難を恐れず進む覚悟があります。過去には巨漢の外国人と喧嘩して首を骨折しました(笑)。
【教訓③】「ファジーさ」の可能性
プロレスでは反則が5カウントまで許されます。この柔軟さは、現代VUCA社会生活では特に重要です。「ルールだから何が何でもダメ」という頑なさは、批判的思考を妨げます。批判的思考なくして、正しい現状認識も、新しい価値観の創出もあり得ません。一方で、一定の反則を許容するプロレスは、自己責任や柔軟な思考の大切さを教えてくれます。
→実践:車が来ない横断歩道では、信号を無視して渡ることもあります。ただし、必ず5秒以内に渡りきります(笑)。
【教訓④】「チームワーク」の大切さ
タッグマッチでは、個々の力だけでなく、相互の信頼と協力が勝敗を左右します。息の合った連携が勝利をもたらすことを、プロレスは教えてくれます。
→実践:パートナーとは信頼と協力を大切にし、お互い助け合っています。
【教訓⑤】楽しませるための「表現力」
プロレスは単なる格闘技ではなく、観客を楽しませるエンターテインメントでもあります。アントニオ猪木さんが必殺技「卍固め」を会場の隅々に向けてアピールした(*5)ように、自己表現の大切さを学ぶことができます。
→実践:資料作成では常にエンタメ性を意識しています。
【教訓⑥】心身を鍛えることで得られる「強い身体と心」
強い身体がなければ、大切な人を守ることはできません。そして、強い身体を持っていても、心が弱ければそれは実現できません。日々の鍛錬を通じて、少しでも強い身体と心を育てていくことの重要性をプロレスは教えてくれます。
→実践:時間を見つけて筋トレを続けています。
このように、プロレスの教訓は、私の仕事やプライベートにおいて大きな指針となっています。そして、同じくプロレス好きな人となら、ビジネスや物事を円滑に進めることが可能であることがわかっています。
「ヒール」という役割の重要性
例えば会議で議論が停滞している場合、プロレス好きは自ら進んで「ヒール」を演じることで議論を活性化できます。プロレスを通じて「ヒール」の役割の重要性を理解しているため、悪役を引き受けることを恐れません。そして、その場にもう一人プロレス好きがいれば、アイコンタクト等によって即座に役割分担(「ヒール」と「ヒーロー」)が成立し、確実に議論は白熱します。
一方で、プロレスに通じていない人には、この「ヒール役」を進んで担うことは難しいようです。「悪者になりたくない」意識が、意見の衝突を避ける方向(つまり議論の停滞)に進みます。
また、プロレスに通じていない人は、相手の技を「受ける」ことを極端に嫌う傾向があります。そのため、相手の話をろくに聞かず、いきなりマウント(*6)を取ろうとして来ます。マウントを取ることで「勝った」とでも思っているのでしょう。しかし、これはプロレス好きにとって非常に浅はかで無礼な行為に映ります(私たちは、礼儀すらプロレスから学んでいるのかもしれません)。少なくとも、全国3000万人のプロレスファン(*7)を敵に回す行為であると言えるでしょう。
プロレスの定義とその価値
そもそも、プロレスとは何なのでしょうか?その他の格闘技とは明確に異なります。その他の格闘技は、上記教訓の①「技を受ける」や③「ファジーさ」、⑤「表現力」とは無縁です。
とはいえ、プロレスを「八百長」と呼ぶのは適切ではありません。たとえ勝敗が事前に決まっていても、それは「真剣なエンターテインメント」です。どこで何回転のジャンプをするかが予め決まっているフィギュアスケートを「八百長」とは呼ばないのと同様です。つまり、フィギュアスケートと同様に、技術と芸術性を極限まで拡大させたもの、それがプロレスではないでしょうか。
元々、英語で「格闘技」は "Martial Arts" と表現されます。この言葉は、ローマ神話の戦いの神「マルス」に由来する "Martial"(戦闘・格闘) と、"Art"(技術・芸術) を組み合わせたものです。このため、特にプロレスを「格闘芸術」と称する方もいらっしゃるようです。
私が尊敬するある先輩の口癖は、「人生はプロレスの縮図である」 というものです。ここで重要なのは、プロレスが人生の縮図なのではなく、むしろ人生の方こそがプロレスの縮図だという点です。つまり、「我々の人生など、すべてはプロレスありきの取るに足らないもの」 という観点です。このような考え方に至ると、もはやそれはタオイズム(道教)(*8)や仏教的無常観(*9)、さらには古代ギリシャ・ローマのストア派(*10)にも通じる深遠な哲学と言えるでしょう。
いずれにせよ、プロレスは単なるスポーツの一ジャンルにとどまらず、我々の人生にとって重要な教訓を与えてくれる「大いなる何か」であることに間違いありません。
世界情勢とプロレスの重要性
今月の20日、トランプ氏がアメリカ合衆国の47代大統領として就任(復帰)します。彼は無類のプロレス好きとして知られ、度々プロレスの会場に姿を現しています。
果たして、我が国の現首相に、このトランプ氏との「プロレス的なやり取り」を適切にこなす能力はあるでしょうか。今や、この能力の有無こそが、国益を左右する大きな要因となっているのです。魔人ブウのコスプレ姿(*11)を見る限りでは潜在能力は高そうですし、秘書が着けているマスクを引き剥がす姿(*12)は、往年の小林邦昭さんを彷彿とさせるものでした(*13)。「虎ハンター」ならぬ「トラ・ハンター」として活躍する可能性も、なくはないでしょう。しかし、もし現首相がプロレスの流儀にまったく通じていない(いきなりマウントを取ろうとするようなタイプである)場合、トランプ氏との円滑なやり取りや交渉は、非常に困難なものとなることが予想されます。
この課題において、プロレス好きの政治家たちの力を借りるのも一つの手段かもしれません。トランプ氏との交渉を、同じ自由民主党の和田政宗議員や、場合によっては立憲民主党の野田佳彦議員、国民民主党の榛葉賀津也議員に任せるという案です。彼らはいずれも大のプロレス好きとして知られています。トランプ氏なら、相手に不足はありません。ロックアップからの手四つに始まり、華麗なプランチャを決めるなど、芸術的な試合を成立させる可能性が高まるでしょう。
BBDF 藤本
*1 「風車の理論」:相手の攻撃を避けることなく、風車のように受け止めることでダメージを最小化する、という理論です。相手の力を最大限に引き出した上で、それ以上の力で倒す、という意味合いでも使われます。
*2 「力道山」:本名百田光浩。大相撲を経てプロレス入りし、戦後のマット界で大人気を博したプロレスラーです。
*3 「シャープ兄弟」:1954年に初来日した、カナダの兄弟タッグチームです。力道山との抗争で日本のプロレスブームに火をつけました。「ヒール」の代表格ですが、兄弟ともに大の親日家で、兄のベンは息子を「リキ」と命名していたりします。
*4 「戦後の日本人」:1953年に始まったテレビ放送により、プロレスは大ブームとなりました。1963年5月24日に生中継された力道山v.s.ザ・デストロイヤー戦は、平均視聴率64.0%を記録。現在でも歴代高視聴率の4位です。
*5 「会場の隅々に向けてアピール」:「見せる」ことを熟知していた当時の奥様、倍賞美津子さん(元松竹歌劇団の女優)のアドバイスによるものだと言われています。
*6 「マウント」:上の選手が下の選手の胴体に正対し馬乗りになっている状態(柔道の縦四方固)=マウント・ポジションのことです。柔術において圧倒的に有利なポジションをされていますが、すぐにこの体勢になってしまう試合はつまらない、と言われます。
*7 「全国3000万人のプロレスファン」:かつてプロレス中継を担当していた古舘伊知郎アナの名台詞、「全国3000万人のプロレスファンの皆さん、こんばんは!」より。
*8「タオイズム(道教)」:個人の人生を過度に重要視するのではなく、大きな流れの中に調和的に存在することを目指す、つまり自分自身を自然の一部として見ることで、個人の重要性を相対化する考え方です。
*9「仏教的無常観」:人生や自己を絶対的に重要視するのではなく、それらを一時的な現象として捉える教えです。それは絶望ではなく、執着を手放すための心のあり方とされています。
*10「古代ギリシャ・ローマのストア派哲学」:人生を宇宙全体の秩序や自然法則の一部として捉えます。個人の人生そのものには絶対的な価値がないとする一方で、理性に従って生きることや、徳を追求することが重要とされています。自己の取るに足らなさを認識することで、外部の出来事や自分の感情に過度に左右されない心の平穏を得ることができます。
*11「魔人ブウのコスプレ」:参照 産経新聞リンク
*12「マスクを引き剥がす姿」:参照 YouTubeリンク
*13:「小林邦昭さん」:タイガーマスクの覆面を剝がしにかかる「虎ハンター」として一世を風靡した、ヒールレスラーです。