昨日(10月26日)執行された、宮城県知事選。
その結果は、現職・村井嘉浩氏が34万票で当選、新人・和田政宗氏は32万4票と1万数千票の僅差で敗れるという、事実上の一騎打ちとなった。
一見、地方選挙の一つに過ぎないように見えるこの結果だが、その内訳を丁寧に見ていくと、現代日本が抱える「構造的なねじれ」が浮かび上がってくる。今回の選挙は、単なる現職と新人の戦いではなく、「過去」と「未来」のせめぎ合いだったと言えるのだ。
地理の断層:仙台は和田、地方は村井
開票結果を市区町村別に見ると、仙台市は5区すべてで和田氏が勝利。一方、仙台市以外の34市町ではすべて村井氏が勝っている。
つまり、「仙台=和田支持、地方=村井支持」という、鮮やかな対比が現れたのだ。
これは単なる地域差ではない。仙台には若い世代、子育て世代が多く住む。一方、地方部では高齢者の比率が高い。この構図が、そのまま世代の構図と重なっているのだ。
世代の断層:若者は未来を、年配層は現状と過去を
NHKなど各局の出口調査を見ても、この傾向は明白だ。
- 10代 村井40%、和田47%
- 20代 村井30%、和田54%
- 30代 村井24%、和田60%
- 40代 村井35%、和田48%
- 50代 村井42%、和田42%
- 60代 村井48%、和田30%
- 70代 村井46%、和田28%
- 80代~ 村井49%、和田24%
若い世代ほど和田支持が多く、年配層ほど村井支持が多い。30代では、和田氏が村井氏の倍以上の支持を得ている。まさに「世代の断層」だ。
和田氏が掲げたのは、子育てを中心とした、教育・若者支援の政策。子育て世代である30代の支持が圧倒的だったのも当然だろう。彼が“未来志向”のメッセージを発信する一方で、村井氏は“安定と実績”を訴えた。
結果は……未来が、過去に敗れた。
未来が過去に負けた日
この結果をどう捉えるべきか。言葉を選ばずに言えば、「高齢世代の圧倒的な数に、若者の声がかき消された」ということだ。
若者は子育て、働き方、教育など“未来を形づくる課題”に関心を寄せる。一方、投票行動においては高齢世代が圧倒的な数を占める。彼らは医療、福祉、地域維持といった“現在の安定”を優先する。どちらが悪いという話ではない。
ただ、人口構造が偏る社会では、結果として政治が“過去志向”に傾きやすくなるのは確かだ。
宮城県の東京圏への転出超過率が全国1位という事実は、この構造を象徴している。若者が希望を見出せず、外へ出ていく。「声を上げても届かない」という感覚が、若者の政治参加意欲を削ぎ、選挙離れを加速させてしまう。
こうして、“少子高齢化スパイラル”は政治面でも進行していくのだ。
“世代間民主主義”の歪み
日本の選挙制度は「一人一票」だが、人口の偏りが進むと、それは“世代による格差”を生む。投票数の多い世代が常に政治的影響力を持ち、少数派の若者の意見は埋もれていく。
この仕組みは、民主主義の理念とは裏腹に、「未来世代を代表できない民主主義」になりつつある。
民主主義が数の論理である以上、この歪みは放置できない。年配層を責めるのではなく、構造としての限界を直視する必要がある。
提案:世代別ポイント制という発想
ここで一つの思考実験をしてみたい。もし、有権者を世代ごとに分類し、それぞれの世代に“同じ重み”を持たせる制度を導入したらどうなるだろうか。
たとえば、
- 70歳以上の合計が100人の場合、100人で100ポイント
- 20代の合計が10人しかいない場合、10人で100ポイント
とし、それぞれの世代内の得票率に応じて候補者にポイントを割り振る。最後に全世代のポイントを合計して当選者を決める。いわば、比例代表制の世代版といえる発想だ。
こうすれば、人口の多寡に関係なく、すべての世代が等しく政治に影響力を持つ。つまり、「誰も取り残されない民主主義」が実現する。若者の声も、年配層の経験も、対等に政治へ反映される社会になる。
もちろん、現実的には法制度上の課題は多いだろう。だが、「世代間の公平」という視点で選挙制度を再考する時期に来ているのは確かだ。
課題先進国・日本の使命
日本は、世界に先駆けて人口減少社会に突入した「課題先進国」だ。その意味では、いま起きていることは“未来の先取り”でもある。少子高齢化、地域格差、政治の世代偏重……これらは、近い将来、他国でも必ず直面する課題だ。だからこそ、私たちは悲観ではなく、使命感を持ってこの問題に向き合うべきだろう。
宮城で起きた選挙の構図は、日本の、いや世界の未来を映す鏡である。
未来をどう描くか。誰の声を、どのように政治へ届けるのか。その答えを見出すことこそ、いまを生きる私たちの責任と言える。
日本は、課題先進国であるからこそ、世界に先駆けて“解決先進国”となる可能性を秘めている。宮城から、次の社会のあり方を考えていこう。これ以上、未来を過去に譲り渡さないためにも。
BBDF 藤本英樹

