今、日本は「人口減少」という(戦争や疫病、政策的要因を除けば)(*1)人類史上前例のない先進的課題に直面しています。
この課題に伴うさまざまな問題に対応し、社会や生活の構造を適切に変革するためには、現在指数関数的な進化を見せている人工知能(AI)をいかに活用できるかがカギとなります。
すでに多くのビジネスにおいて、「AIなくして健全な成長なし」の状況です。効率化、省力化、少人化といった「削減効果」は当然のことながら、品質や顧客体験の向上、新しいビジネスモデルの創出、リスク管理・セキュリティの強化、創造性の支援(イノベーションの加速)、グローバル展開の促進、従業員のエンパワーメントなど、「付加価値効果」の創出にもAIの恩恵は計り知れません。たとえば、パターン認識や予測モデルを活用して未来のトレンドやリスクを予測し、データ分析を基に正確かつ迅速な意思決定を支援するAIは、もはや経営に不可欠な存在と言えます。つまり、企業がAIを十分に活用できるかどうかで、経営の優劣が大きく分かれる時代になっています。
そこでまずは、「習うより慣れろ」の精神で、経営者自身がAIを実際に使いこなすことが必要です。GPT(*2)やCopilot(*3)などを試して、自ら触れてみるのが良いでしょう。(ご依頼いただければレクチャーに伺います!)
実際に使ってみると、一定数の人はこう感じるかもしれません。
「思ったような答えが全く返って来ない!」
これをAIの問題だと思うかもしれませんが、多くの場合、その原因はユーザー自身のプロンプト(*4)作成にあります。
AIが正確な応答や結果を出すには、「明確で具体的な」プロンプトが必要不可欠です。不適切(曖昧または抽象的)なプロンプトでは、AIが誤った結果や期待外れの情報を生成してしまいます。
では、なぜ「明確で具体的な」プロンプトを作れないのでしょうか?
1つ目の理由は、「甘え」です。過去に「一を聞いて十を知る」優秀な部下に恵まれた経験があると、曖昧な指示でも結果を出せると考えがちです。しかし、そうした部下が常に存在し続ける保証はありません。そのような優秀な部下ほど大きな負担やストレスを抱えている可能性があるのです。
その結果、「面倒だからAIなんて使わない、人間だけでやればいい」と考えるケースもあります。ただし、それが成立するのは、人的資本経営(*5)に絶対的な自信と実績がある場合に限られます。今後の事業継続性を考えれば、このような属人的な経営はリスクが高いと言えます。
最近、実際に自分でAIを触るようになったことをきっかけに、自社(自身)が抱える課題に気づくことができた経営者の声を聞く機会に恵まれました。
社長曰く、「社員(特に若者)への指示には、昔よりも明確さや具体性が求められていると感じていた。昔と今では世の中の情報量も違うし、適当に指示しときゃ動いてくれるような時代じゃないんだよな。GPTと会話しているうちに、若者への適切な指示の仕方がわかってきたよ(笑)」
曖昧な指示では動いてくれない現代において、AIを自ら触ってみることで社員とのコミュニケーションや指示の質が改善されるのです。
いまだに「GPTがこんな頓珍漢な回答をしてきた」「AIはまだまだダメだ」と嘲笑する人を見かけます。しかし、その原因が自分にある可能性も高いことに、そろそろ気づくべきです。(*6)
次回は、「明確で具体的なプロンプトを作成できない理由」の2つ目、より根本的な「最大の課題」について取り上げます。
BBDF 藤本
*1:
・戦争による人口減少の例…17世紀の三十年戦争において、ドイツ諸邦の一部地域では人口が50%近く減少。第二次世界大戦でも世界中で数千万人の死者が発生、ソビエト連邦の死者2,700万人は当時の人口の約14%に該当します。
・疫病による人口減少の例…14世紀の黒死病(ペスト)により、ヨーロッパでは人口の約30~50%が死亡したとされています。
・政策的要因による人口減少の例…ソビエト連邦の強制的な集団農業政策(ホロドモール)により、ウクライナでは数百万人が餓死しています。また、毛沢東の大躍進政策では中国国民約4,000万人が餓死、カンボジアのクメール・ルージュ政権による極端な共産主義政策により人口の約1/4(推定150万~200万人)が死亡したとされています。
*2:GPT-4oリンク
*3:Copilotリンク
*4:AIやコマンドラインインターフェース(CLI)などで、ユーザーが入力する「指示」や「質問」のことです。
*5:従業員一人ひとりのスキルや知識、経験といった「人的資本」を企業の重要な資産とみなし、それを最大限に活用して企業価値を高める経営手法です。従業員の育成や働きやすい環境の整備、適切な評価を通じて、従業員の能力を引き出し、組織全体の成果を向上させることを目指します。簡単に言うと「人材を会社の財産と考え、その価値を高めて経営に活かす」という考え方です。ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が注目される中、人的資本開示は重要な情報とされています。
*6:そもそも、GPT(Generative Pre-trained Transformer:生成的事前学習済みトランスフォーマー。トランスフォーマーとは、自然言語処理-NLP-や機械学習におけるニューラルネットワークのアーキテクチャ-構造-の一つで、特に順序を考慮しながら効率的に長い文脈を処理できる仕組みのことです。2017年にGoogleの研究チームが発表した論文「Attention is All You Need」で初めて紹介されました)をGoogleのような検索エンジンの代替として使うこと自体が誤りです。GPTは情報の理解・整理・生成を助けるためのツールであり、このふたつの用途を混同することで混乱が生じているように思います。