“悪口”から始まるイノベーション?

AI時代に問われる「問いを立てる力」の磨き方

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「問い」を投げかけられる組織が強い理由

人が「問い」を投げ続けることのできる組織は強い、と言われています。

「なぜこの仕事をするのか?」「このやり方は果たして最適か?」「この制度は果たして機能しているのか?」…このようなあらゆる「問い」を持ち、投げかけることを歓迎できる組織は柔軟です。そしてその風土こそがイノベーションと組織内省を促進すると考えられるのです。

AI時代において加速する「問い」を立てる力の重要性

AIが進化することで、「問いに答える」という役割は人間から急速に不要になりつつあります。情報収集、要約、判断支援、あるいは演繹的推論すらAIはこなすようになっており、「問いに答える」ことは、もはやAIの領域に移ったと言っても過言ではないでしょう。

では、AIにできないことは何なのか?それは「なぜそれを問うのか」「そもそも何を問うべきか」を決定すること、つまり「問いを立てる」ことの“意味づけ”です。これは人間にしかできません(今のところ)。つまり、「問いに答える」ことはAIに任せ、「問いを立てる」ことこそが人間の役割の核心となっている時代に、既に突入しているのです。

人間が「問いを立てる」ということ

人間の「問い」は、論理よりも感情や違和感、倫理、偶発性、世界観の転回といった要素と深く結びついています。AIが“整った前提の中での最適な答え”を出すのに対し、人間は「前提そのものを疑う」という“反転の知性”を持っています。これは、まさにハンナ・アーレントが言った「考えるという行為そのものが、世界に対する責任を持つこと」であり、マルクスが言う「世界を解釈するだけでなく、変革する」ことにも通じます。

例えば前述の「この制度は果たして機能しているのか?」という組織における問い。この類の問いは、権威構造の中で“沈黙すべきもの”とされがちです。しかしそれを歓迎できる組織こそが、進化しています。ここで重要なのは、「問い」がただ投げられるだけでなく、それを真摯に受け取る土壌があるかどうかです。これは単なる制度の話ではなく、カルチャーの問題です。カルチャーは、制度ではなく日々の対話の質がつくります。上司が“その問い、いいね”と言えることから始まるのです。

組織における「心理的安全性」という言葉が氾濫していますが、その本質は「問いを歓迎するカルチャー」です。そのカルチャーが欠落している限り「心理的安全性」など望むべくもない、というのが現実でしょう。そして特に日本企業には、そういった組織がまだまだ多いのが現状です。

「問いを立てる」ために必要となるのは「批判的思考」に他なりません。既成概念や常識、つまり「現状」を批判的に疑うことがすべての起点となります。

  • 「このネクタイというものは、何故しめなければならないのか?」
  • 「どうして朝9時に出社するのが当たり前なのか?」
  • 「どうして会議がこんなに多いのか?」
  • 「人間って何なのか?」

そういった素朴な違和感や不合理への感受性を背景として持つに至った「疑問」を起点とし、様々な探求が始まります。

「問いを立てる力」の“意外な”育て方

「問いを立てる力」とは、無自覚に流されることを拒み、自分自身の軸を立てることです。このような「現状を批判的に疑う」こと、つまり「批判的思考」を極めてわかりやすく言い換えると、「悪口を言う」行為、ということになるのではないでしょうか。

決して世の中では「良いこと」とはされていない「悪口を言う」という行為ですが、実は現代において非常に重要なものとなりつつあるような気がしています。

「悪口」とは言い換えれば「自分で見て、自分で言語化する力」です。つまり、「借り物の価値観ではない、自分の認知から出てくる問い」そのものであり、そのベースには観察力や高い言語能力が必要となります。そして何より、人間が成長するにはまず「違和感に名前をつけること」が必要であり、その過程では感情も、批判も、ネガティブさすらも重要な知的契機となります。

もちろん、破壊的な「悪口」と創造的な「批判的問い」の違いはあります。数々の毒舌で知られる有吉弘行さんは「悪口は良いけど、陰口は良くない」と語っています。彼のように鋭い観察力と違和感を察知する力、そして高い言語能力を持っているような人こそが、「批判的思考の塊」と言えるのではないでしょうか。

「問いを立てる力」とは、観察によって違和感を察知し、それを批判的に捉え、言語化を経て問いへと昇華させる力のことです。そしてそこに“感情や倫理のセンサー”が入っていることが、人間の強みです。

  • 常識を疑う
  • 観察力を鍛える(対話・読書・フィールドワークなど)
  • 違和感を感じたままにせず言語化する
  • 問いを歓迎する対話空間に身を置く
  • 「なぜ?」を抑え込まないで育てる

まずは目に入るものに対し、ことごとく「悪口」を言ってみる。我ながらめちゃくちゃなことを言ってる気がしますが、実はこれが「問いを立てる力」を育てるために最も有効な手法であるような気がしています。それにより何らかのトラブルが生じても責任は負いかねますが(笑)。

BBDF 藤本